「女子美付属」の志願者数が年々増えていった理由夏休みの課題として高2生が毎年取り組む女子美祭のポスター。「絵画」「デザイン」「工芸・立体」の3つのコースからバラエティーに富む作品が集まる。2回の予選を経て最終候補5作品が選出され、全校投票で実際に使用されるポスターが決定する。右は美術科の遠山香苗先生

偏差値も下がり志願者も減っていたこの伝統付属校を、再び名実共に人気校に復活させるには何をしたらいいのか。この4年間の志願者数の伸びは、学校の魅力が受験生に伝わってきたことと、カリキュラムが教科横断型に変わっていったワンアンドオンリーの学校が持つ「美術の力」のなせる業だろう。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)
>>第1回『ワンアンドオンリーの美大付属女子校は「秘密の花園」だった』はこちら

「女子美付属」の志願者数が年々増えていった理由

石川康子(いしかわ・やすこ)
女子美術大学付属高等学校・中学校校長

女子美術大学付属高等学校・中学校校長(第18代)。女子美術大学芸術学部洋画専攻卒業後、絵画教室や建築事務所に勤務。30代で神奈川県立高校の美術科教員に。教頭、副校長、上矢部高校(横浜市戸塚区)校長で退任。この間、全国高等学校美術・工芸教育研究会副会長、神奈川県教科研究会美術工芸部会会長も務める。2014年より女子美術大学特別招聘教授、17年から現職。
 

「秘密の花園」からの脱却

「女子美付属」の志願者数が年々増えていった理由[聞き手] 森上展安・森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――「秘密の花園」のような職員室はその後どうなりましたか。

石川 前の校長にも言われていたのですが、教員がしょっちゅう校長室に来ました。要望や課題、改善策を1人ずつ言いに来る。組織で動いていないから直接言いに来る。

――先生方の意欲はあるのですね。

石川 あります。話を1人ずつ聞いて分かったのは、先生方の人数が少ないからと1人に2つも3つも分掌を持たせていた。兼任させた結果、教務担当だけで30人もいたりする。これではまとまるわけがありません。分掌ごとに優秀な主任がいましたが、意思決定は主任会議が行うので一般の教員は自分たちには学校を変えられないと考えていたことも分かりました。

 11月に「これからは1人1分掌にする」と発表して、年明けには今後は主任を3~4年で交代させていくと宣言しました。

――そういう意味では組織の大改革をされましたね。

石川 私は生徒と直接付き合いがないので、教員を楽にして働きやすくすれば生徒が良くなり学校も良くなると考えました。大学があるので構内は24時間警備。「やりたいだけ仕事をしたいからほっといてください」と言う先生もいたりして、私が赴任した頃は夜の9時や10時まで残るのが普通の状態でした。10年前には労働基準監督署の指導も入ったようでした。

――世間的にはブラック職場に見えますね(笑)。

石川 まずはせめて8時半に帰宅させようとしましたが、帰らない。そこで働き方改革チームを作りました。労働法に詳しい社会科の先生に根回しして、あとのメンバーを募集したところ、手を挙げたのは全員が保育園や小学校低学年の子どもがいるママさん先生たちでした。

 変形労働時間制などをメンバーで勉強して、同僚には彼女たちが説明してくれました。事務方の職員は後ろに控えていましたが、彼女たちが「大丈夫よ」と質問に答えてくれればみんな安心します。法人も理解があり、変形労働制はスムーズに導入となりました。

 私の方は教員の数を増やすよう学校法人と交渉して、専任・常勤職員は16人増に。いまでは何とか7時15分には帰れるようになりました。

――ほんの2年間でだいぶ変わりましたね。

石川 小さなお子さんのいる先生が、新任の女性の先生に「うちホワイトだから」と言っているのを聞いて、もううれしかったです。昨年は産休・育休の先生が7人いましたが乗り切れました。いまでも事務仕事はどんどん効率化しています。課題があればチームを募集し、組織で提案、みんなで実行と、改革がスピーディーです。