ワンアンドオンリーの美大付属女子校は「秘密の花園」だった1学期に制作された生徒の選抜作品を玄関ロビーに展示する「生徒優秀作品展」。中学生の作品の前で

コロナ禍で人数を絞っていることもあり、どの学校も学校説明会の予約枠が取りづらい。中でも、“楽しい”と受験生に評判の女子美術大学付属の体験型説明会は年々人気が増しており、すっかりプラチナチケット化している。全国的に見ても、美大の付属校自体が珍しい。このワンアンドオンリーの学校では、高2・高3になると週10時間も美術教育が行われている。系列大学の前身となる私立女子美術学校は1900年創立の伝統校であり、付属校も創立からすでに1世紀を経ている。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

ワンアンドオンリーの美大付属女子校は「秘密の花園」だった

石川康子(いしかわ・やすこ)
女子美術大学付属高等学校・中学校校長

女子美術大学付属高等学校・中学校校長(第18代)。女子美術大学芸術学部洋画専攻卒業後、絵画教室や建築事務所に勤務。30代で神奈川県立高校の美術科教員に。教頭、副校長、上矢部高校(横浜市戸塚区)校長で退任。この間、全国高等学校美術・工芸教育研究会副会長、神奈川県教科研究会美術工芸部会会長も務める。2014年より女子美術大学特別招聘教授、17年から現職。

 

校長就任で覆された女子校のイメージ

ワンアンドオンリーの美大付属女子校は「秘密の花園」だった[聞き手] 森上展安・森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――校長に就任されたのは4年前の2017年のことですね。

石川 4月7日の入学式に出席したのが、生徒に会った最初の機会でした。初めて見る中学の新入生はあまりにもかわいくて幼くて、みんながすごく不安そうな顔をしていました。高校は3分の1が新たに入ってきますが、気楽な顔の内部進学生と緊張した面持ちの高入生が融合するのか、そこも心配でした。

 それがひと月もたたないうちに、生徒同士がキャッキャとものすごく楽しそうで、これはいったいどうなっているのと思いました。

――県立の高校と女子校ではだいぶ違いましたか。

石川 私は小中高と公立の共学校出身でしたから、女子校に対してはステレオタイプな偏見がありました(笑)。グループを作っていじめたり、女子だけで大騒ぎしたり、 お気楽すぎるのではないかとか。でも、赴任してみたところ全然違いまして、それまでのイメージを覆されました。 

 大学も含め10年間女子だけというのは異様なのではと、よく来てくれる卒業生に聞いたこともあります。「女子だけの学校から男社会に放り出されてどう?」と。そうしたら、「男性のいない中に10年間いたからこそ、おじさまたちの間にいても全然違和感がありません。男性のことを勝ち負けでは見ずに、普通の私のまま過ごせたから」と言うのです。

――なるほど、それはいいことですね。

石川 自分自身改めて振り返って見たら、男の子に忖度(そんたく)していた自分がいたことに気づき、がくぜんとしました。男女共学が良かったと思っていたのは嘘でした。女子は女子校の方が絶対に伸びます。まだまだ日本は男女平等ではありませんが、女子校で育った人間がその壁を打ち壊していくのかなという気がしています。

――女子美大を卒業後、皆さん美術で身を立てられているわけでしょうか。

石川 作家活動ってなかなか大変なので、おカネを稼ごう、というときに就職するようです。以前はデザイナーが多かったものの、ずいぶん進路も変わってきました。最近では、企画や広報関係、企業芸術活動なども多いようですね。

――そういう面では皆さんしっかり仕事になっている。

石川 昨年度はこのコロナ禍でどこの美術大学も就職が大変でした。ところが付属出身の女子美大卒業生だけは就職率が九十何%なの。

 いまはAI(人工知能) の時代です。真面目で勉強がいっぱいできたような人よりも、独創力や表現力が求められています。いろいろな分野で美術のデザイン思考とアート思考が生きるみたいで、特に付属校から大学に進んだ生徒は就職には全く困らないようですね。

――何が違うのでしょう。

石川 付属校出身者は、こういう道を進みたい、就職先もこういうところに行きたいと、自分のやりたいことがはっきりしているようです。自分のアイデンティティーができ上がっていて、自信もたっぷり。そこが大学から入ってきた他の学生とは違う、と女子美大の教授が言っていました。