「自分の都合のよい時間に働きたい」という意思
「ZIP WORK」始動後の2017〜18年、人材採用マーケットは、有効求人倍率*7 が全国平均で1.5倍以上、東京だけで見れば2倍を超えるほどの“売り手市場”だった*8 。高いスキルを持ちながらフルタイムで働ける人材は引く手あまた。そこで多くの企業は、スキル面での基準は落とさずに時短・日短勤務を認めるなど、労働条件を緩和する方向へと舵を切った。フルタイム勤務が“売り手市場”であったのに対して、時短・日短勤務は“買い手市場”だったからだ。
*7 有効求人倍率とは、有効求人数を有効求職者数で割った数値のこと。「売り手」は求職者、「買い手」は求人元を指し、求人倍率が高い場合は、求職者が企業などの就職先を選びやすい売り手市場、求人倍率が低い場合は、企業などの就労先が求職者を選びやすい買い手市場となる。
*8 厚生労働省2017年7月28日公表データより。
路川 世の中的に、働くことに対する価値観も変化しつつありました。「無理をせず、そのときどきのライフスタイルや考え方に合わせて、心地よく働ける時間や場所を選択しながらキャリアを築いていこう」と考える方が増えてきたのです。人生100年時代――仕事をメインにできない時期があるのは誰にとっても自然なことですよね。現在、当社に登録している方のなかにも、ライフステージを考慮した結果、非正規雇用での働き方をいったん選択して、タイミングをいずれ見計らって正社員に復帰するつもりだという方はたくさんいらっしゃいます。たとえば、いまの日本では家庭の事情によって女性の方がフルタイムでの仕事を中断せざるを得ない傾向にありますが、皆が皆その状況をネガティブに受け止めているわけではありません。自ら望んで、時短・日短勤務で働く方もたくさんいらっしゃいます。
現在、派遣労働者は全国で約156万人。この数字は労働者全体の約2~3%、非正規雇用労働者の約7~8%に相当する*9 。非正規雇用を自らの意思で選び取っている“本意非正規雇用労働者”が増え、 “不本意非正規雇用労働者”は減少傾向にあることも見逃せない*10 。異動や転勤が避けられず、残業も日常茶飯事である正社員では育児や介護と両立できず、また、非正規雇用のなかでも時給の低い仕事では家計を支えるのが難しい。そうした理由から、働く場所や時間を選ぶことができ、比較的高い時給を確保できる“派遣”という働き方が注目を集めるのも、利にかなっている。
*9 厚生労働省、総務省統計局公表データより算出。
*10 厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」より。
路川 当社への派遣登録者数は年間6万〜7万人ほどおり、時短勤務をしている方は現在約3万人です。割合は圧倒的に女性が多いのですが、男性でも介護と仕事の両立やフリーランスの仕事と兼業される方が増えているので、全体を通して男女ともに増加傾向にありますね。自分に合った条件で働きながらキャリアを築いていきたいということで、正社員のオファーを断る人もいるほどです。総務省の労働力調査でも、派遣に限らず不本意の非正規雇用労働者は10%程度しかいないということがわかっています。
“派遣”だけではなく、非正規雇用全体を見ても、30%以上の人が「自分の都合のよい時間に働きたいから」ということを選択理由に挙げており、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という回答を大きく上回っている*11 。こうした数字からも、仕事と個人的な事情をトレードオフにするのではなく、両立させながら効率よく働くという考え方が珍しくないことが伝わってくる。
*11 総務省統計局 労働力調査(2020年)より。