既存組織で非連続な改革を起こす
スタートアップ的発想の重要性

 変革を引き起こすための仕掛けを企業という組織で考えると、既存組織の中で非連続な変革を起こすのは、組織内の主流派ではなく周縁部に位置する人、もしくは既存組織から切り離された新しい組織内組織だといわれている。企業内ベンチャーや企業内スタートアップがそれにあたる。

 多くの日本メーカー、特にこの20年のあいだ苦境に立たされた企業ほど、企業内でのベンチャーやスタートアップに熱心だ。それは、企業内で組織的慣性の影響力を排除し、非連続な変化を起こしやすい環境をつくるためである。ソニーやパナソニックの社内スタートアップは、社長直轄であったり、既存組織とは異なる組織で行われたりしているが、それらは既存組織が持つ組織的慣性の影響力を排除するためである。

 自民党という既存組織の変革を考えるときに、いかに組織的慣性の影響力を排除するか。国会での議員の集団としての自民党を連続的な能力を引き継ぐ組織としながら、自民党から選ばれる政府のトップを非連続な改革力に委ねるというのも、ひとつのバランスの取り方かもしれない。

 本来、こうしたバランスは与野党間でとってもよさそうなものであるが、今すぐに政権交代ができる状態でないとすれば、自民党内の野党勢力に目を向けるのもひとつの方策だろう。長い自民党政治の歴史の中で、自民党ほど右から左まで多様な意見を持つ政治集団も他にはなかったであろう。自民党の中に、さまざまな多様性のある政治家がいて、両者が既存の能力と変革のバランスを取ることで、自民党という党内多党政治が成立していたようにも見える。

 昨今の自民党に対する国民の不満は、かつての自民党のような多様性が損なわれてきたところにあるのかもしれない。世論調査を見ると、政権支持率が低いのに政党としての与党自民党の支持率が高いという結果がよく見受けられる。これは、既存能力の強化については従来の自民党流の政治を望みつつも、国民が望むような変革を自民党が起こし切れていないということでもあろう。

 短期的には自民党内の多様性を活用すること、長期的には野党が現実的な政権担当能力を身につけ、日本の議会政治に多様性のある選択肢を提供することが、不確実な変革期を乗り越えるために必要なことではないだろうか。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科教授 長内 厚)