小泉・安倍時代に共通する「仮想敵」と「シンパ」

 近年、長期政権だった小泉氏と安倍氏の2人に共通するのは「マスコミにボロカスに叩かれたが、それを擁護する熱烈な支持者やメディアもいた」ということである。安倍氏でいうところの、いわゆる「安倍応援団」だ。

 これまで見てきたように、日本の首相というのはマスコミからボコボコにされる運命だ。そして、そのマスコミを信頼する国民によって、厳しい政権運営を強いられ、多くが1、2年でギブアップする。

 しかし、「熱烈な支持者やメディア」の応援があれば、この逆風をどうにか乗り切れるのだ。

 このあたりの人心掌握術に関して、小泉・安倍の2人は天才的だった。

 小泉氏は「自民党をぶっ壊す」「抵抗勢力」というキャッチーな話術で、「仮想敵」を生み出して、自身の改革者としてのブランディングを成功させて求心力にした。安倍氏も中国、韓国、朝日新聞を「仮想敵」とすることで愛国者イメージを不動のものとして、中国や韓国への向き合い方に不満を抱える人たちのハートをわしづかみにした。

 つまり、「仮想敵」をつくることで「熱烈なシンパ(信奉者)」を獲得したのだ。彼らはマスコミがいくら叩いても揺らがない。むしろ、「マスコミはデタラメだらけで真実を隠している」なんて感じで、さらに心酔していく。これは、マスコミに「史上最低の大統領」などと叩かれたトランプ大統領を熱狂的に支持した、いわゆる「岩盤支持層」でも見られた現象だ。

 もちろん、「分断から協調へ」を掲げ、党内でも「いい人」として知られる岸田氏が「仮想敵」をつくるというのは現実的ではないかもしれない。

 ただ、マスコミのネガキャンに揺るがない、強烈な「岸田応援団」をつくっていくには、どうしても誰かを敵にまわすようなこともしなくてはいけないのではないか。

 「戦う政治家」に生まれ変わったという岸田氏が、ほどなくして始まるであろうマスコミの攻撃をどうしのいでいくのか。そして、どうやって安定した政権運営をしていくのか、注目していきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)