“健康”という価値観を通しての新たな労使関係

 2020年初頭から、新型コロナウイルス感染症の全世界的な拡大が始まり、現在(2021年10月)も収束の見通しが立っていない。長引くコロナ禍が、企業の「健康経営」の取り組みにもたらしている影響や変化は何か?

「健康経営」の落とし穴は?企業が忘れてはいけない3つのポイント

山田 私は、コロナによってそれほど大きな変化が起こっているとは思いません。「すでにあった変化が加速している」状況だと思います。

 典型的なのが、従業員と会社の関係に、より強い遠心力が働くようになったことです。コロナ禍でも出社しなければならないケースはもちろん、テレワークで在宅勤務が増えたケースでも、従業員にとっては「なぜ、この会社で働き続けるのか?」を問い直す機会が増えました。その結果、もっと働きやすい職場を探して離職率が上がり、人材の流動性が高まっています。

 一方、会社側としては従業員の仕事の管理が難しくなるなかで、従業員との関係をよりよいものにして繋ぎとめたいというニーズが強まっています。「従業員の健康をいかに確保するか」は、そのためのアプローチのひとつです。

 そもそも、働く人の健康確保というものは、歴史的に見れば資本主義における労使関係の見直しの延長線上にあります。18世紀半ば、イギリスで産業革命が始まった当初、経営側が圧倒的に強い立場にあり、劣悪な環境で女子や子どもを含む労働者を働かせていました。しかし、そのようなあり方は道徳的・倫理的におかしいということで労働法制が生まれ、労働者の健康を保護するようになっていきました。20世紀になり、特に第二次世界大戦後、労使関係はよりいっそう対等に近づき、今回のコロナ禍を経て、健康という価値観を通して新たな労使関係を構築する動きが起こっているのだと思います。