離島での病院勤務で痛感した“予防”の重要性
山田氏は医学部を卒業後、救急内科医として沖縄県の離島(久米島)にある公立病院に勤務した。そこで一人の高齢の男性患者と出会ったことが、2012年の起業と現在の事業展開に繋がったという。
山田 初期臨床研修(2年)を沖縄県の地域中核病院で行い、そのまま、久米島にある公立病院に勤務していました。ある日、当直していると、高齢の男性患者さんが救急で運ばれてきたので手当てし、容態が落ち着いたので帰宅していただきました。ところが、数日後、また救急で運ばれてきたのです。高血圧が原因だったので、その後、外来で高血圧の治療について説明し、「毎日、薬を欠かさず飲んでくださいね」と念を押したのですが、薬を飲んでいる様子が全然ありません。
上長に相談したところ、「家に行ってごらんよ」と言われ、次の外来診療の後、その方の軽トラックに乗せてもらって家までついて行きました。すると、掘っ建て小屋のような家で、その日暮らしの仕事をしているらしい。当人にとっての最優先は「明日の仕事があるかどうか」でした。高血圧の薬の説明をいくらしても、耳に入るわけがない。医師の自己満足ではなく、患者さんの視点でアプローチしなければいけないのだという“当たり前”の事実に、私は気づきました。これは大きな衝撃でした。
それからは、たとえば、サトウキビの栽培をしている農家の患者さんには、まず、サトウキビについての質問をするようにしました。すると、サトウキビのことはもちろん、普段の生活についてもいろいろ話してくれる。それを参考に、どのように薬を飲めばいいのか――患者さんの生活スタイルに合わせてアドバイスするとちゃんと実行してくれるのです。
もうひとつ、気づかされたのは、病院という場所は病気を治すためにはとても大切な場所ですが、病気を予防する機能や要素はほとんどないということです。患者さんの身に何か起こってから、患者さんにとっての“非日常”に関わるのが病院の役目です。本当は、その人の“日常”に関わり、病気を予防することができれば、本人にとっても社会にとっても絶対にいいはずです。
このふたつの気づきから、一人ひとりの日常に関わり、オーダーメイドの働きかけをすることによって、病気予防と健康維持ができるのではないかという仮説が私の中に生まれました。病気予防と健康維持は、本質的には病院の役割ではありません。では、誰が行えばいいのか――その問題意識から、私は会社を立ち上げたのです。