「ESGだと儲からない」時代から
「ESGじゃないと儲からない」時代になる
清水 その文脈で、SDGsという言葉もよく出てきます。SDGsに関して私が思うのは、これは単に良いことをしましょうということではなく、良いことをちゃんと儲かるようにしましょうということだと思っています。そうすることで初めて、世界を変えることができるのではないでしょうか。儲かるからこそ社会を変えるような良いことができるということが理解されていないケースが、日本では非常に多いように感じています。
実はちょうど、ダノンのCEOが最近更迭されたというニュースが出ておりました。ダノンのCEOは、ESGの世界では非常に先進的な事で有名な方でした。これに関してどういうお考えをお持ちか、少し楠木先生にお聞きしてみたいと思います。
楠木 これは非常にいい題材ですね。ちょうど今朝(2021/3/19)の日経新聞にも載っていました。私は競馬を見るのが好きで、競走馬にダノンファンタジーという、G1レースも勝ったことがある名馬がいるんです。ダノンのESG経営は「ダノンファンタジー」の面があったのではないかと思っています。
うがった見方でいうと、ESGが広く世の中の投資家に求められている事実をある意味利用して、本業のほうでプレミアムを出せていないということだと思います。ファンタジーに流れてしまっていると。
この話のベースにあるのは、「ESGを重視していても、結局儲からないとクビになるのか」というトレードオフ、短期の見方なんですね。逆に、これからを考えると、ESGに取り組んでいないと儲からなくなると思うんです。例えば、私がずっとお手伝いしているファーストリテイリングのユニクロ事業は、ファストファッションに比べると、明らかにESGを重視しています。毎年買って捨てましょうという服ではないですから。
今来ているこの服は、ユニクロで買ったセーターです。
4年ほど着ていてもしっかりしていますし、やはり選ばれますよね。ですから、そういった意味で、先ほど清水さんがおっしゃったことは両方から言えます。つまり、ESGやサステナビリティを利益に変えることと、サステナブルなことをすれば自然と利益は生まれること。これから、そのような動きになってくるでしょう。
だからそのためには、長期的な戦略のストーリーがなければいけません。そうしないと、全部がトレードオフに見えてしまいますから。ESGやSDGsが「ダノンファンタジー」になってしまう。ありとあらゆる指標で「こんないいことやっています」とアピールする統合報告書をよく見ますが、それは、あくまでもお化粧みたいなものです。そうではなく、本業でのプレミアムが求められる。
ちなみに、もう1つ注目したい競走馬で、ネオリアリズムっていう現役の馬がいるんです。これも強い馬なのですが。きょうのテーマのリアリズムにも合いますね。
清水 やはり、リアリズムですね(笑)。
楠木 ええ。これからは長期ネオリアリズムでいくべきです。