「長期」と聞いて「ゴーイングコンサーン」
を思い浮かべる経営者は残念

ESGに熱心だが業績を上げられないCEOはどう評価されるべきか中神康議(なかがみ・やすのり)
みさき投資株式会社 代表取締役社長
慶応義塾大学経済学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)。20年弱にわたり幅広い業種の経営コンサルティングに取り組んだ後、2005年に投資助言会社を設立。2013年にみさき投資を設立し、現職。著書に『経営者・従業員・投資家がみなで豊かになる三位一体の経営』(ダイヤモンド社)、『投資される経営 売買される経営』(日経BP)など。

中神康議(以下、中神) そうですね。これもにある楠木先生の解説に書いてあったと思いますが、我々は別に長期が美しくてきれいだから長期投資をしているわけではありません。長期が儲かると信じているから、長期投資を志しています。

 なぜ長期が儲かるかというと、それは複利効果をフルに享受できるから。ですから、私たちのような投資家は、複利効果を出せる経営とは何かということは常に考えなければいけません。それが障壁であったり、超過利潤であったりするということです。

 長期投資家は、常に複利の経営をとらまえようとしています。なので、あまり意識しないまでも、その定義の中にすでに時間軸が入っています。その時間軸が経営者とぴったり合えば、あるいは経営者も投資家の時間軸に合わせて変わってくれば、長期で複利を出せる事業体になり、みなに富をもたらす資産になっていくのだと思います。

楠木 ですから、「存続」という話とは少し違うと思うんですよね。

中神 なるほど。

楠木 結局、大切なのは損得です。長期のほうが儲かるロジックが強いから長期で考えるという、当たり前のことです。ですが、長期という概念は存続を意味すると思っている人がいて、すぐに「ゴーイングコンサーン」といった言葉を使いたがる人がいます。そういう人たちは長期のために何をやっているのかっていうと、何があるかわからなくて心配だから、現金を持つことぐらいしかしない。

 長期の意味するところが存続になってしまっているのです。そういう経営者は「生き残り」という言葉をよく言う。「生き残りと言わないでくれ」というのが、私の申し上げたいことです。生き残って何をしたいのか、何をしているかを聞かせてほしい。まずはその長期の意味を取り違えないということが、議論の出発点だと思います。