長期の視点に立てばおのずと
ESGもサステナビリティも満たされる

楠木 清水さんのお話(第1回参照)にありましたESGやサステナビリティも、長期の時間軸上で考えるべきことです。これに関しても、私は短期的なトレードオフ、つまり利益や株主価値が一方にあり、もう一方では地球が「何とかしてくれ」と言っているので環境にいいことをしないといけない。この両者を満たすのが難しく見えるのは、短期視点で考えているからです。長期で見れば、これは自然とトレードオンになっていく性質のものだと私は思っています。そのあたり、清水さんはいかがお考えですか。

ESGに熱心だが業績を上げられないCEOはどう評価されるべきか清水大吾(しみず・だいご)
ゴールドマン・サックス証券株式会社 株式営業本部業務推進部長 SDGs/ESG担当
2001年、京都大学大学院修了後、日興ソロモン・スミス・バーニー証券(現シティグループ証券)入社。2007年ゴールドマン・サックス証券入社。2016年から現職。

清水大吾(以下、清水) E、S、Gという3つのワードがありますけど、私はこれ、ぶっちゃけて言うと、「1にG、2にG、3、4がなくて5にもG」だと思っています。しっかりとしたGをベースに経営を議論していく過程で、EとかSとかってものが出てくるのではないでしょうか。

 先ほどの企業価値の話にもありましたけど、このGというのは、まさにその長期的なトレードオンを含めて、今儲かるから儲けようという話じゃなくて、この利益が本当に10年、20年とちゃんと続いていくのかどうかを踏まえて判断していく、そういう経営をしていれば、結果、EとSというのが自然に議論の中に出てくると私は思っています。

楠木 ESGを求める声は、特に消費者の間で大きく広まっています。BtoBの取引はもちろんBtoCでも、消費者がモノやサービスを選択するときに、ESGが選択基準にかなり入ってきているのは、ここ3年間の大きな変化だと思います。

 話は単純で、経営者は、どうしたら超過利潤を超えた複利の経営を長いこときちんとできるかということだけ考えていればいい。今、環境を犠牲にするモノやサービスは選ばれないので結局売れない、儲からないという発想が、長期で考えると自然に出てくるわけです。

 私は競争戦略という分野で仕事をしているのですが、この分野で最初の本を出したマイケル・ポーター先生という方がいまして、彼は頭の回し方が資本主義の権化みたいな人なんです。ところが、10年ぐらい前から、みなさんもよくご存じだと思うんですけど、CSVということを言い始めた。ポイントは、CSRではなく社会共通価値を創ることであり、フィロソフィーや慈善的といったことではなく、自分たちの事業のど真ん中で社会共通価値をつくるべきだと。

 このようなCSVの話を始めたときに、周囲の最初の反応は「ポーターも宗旨替えか」「あんなに利益、利益と言っていた人がどうしたんだ」というものでした。私がポーター先生と話しているときに「実際はどうお思いなんですか」と聞いたら、「これからはCSVが一番儲かるんだ」と答えた。

 多元的に「あれもこれもやらなければならない」と短期で考えると、話がどんどん複雑になってしまいます。これが政治でしたら多元的にならざるを得ない。商売のいいところは、勝利条件がものすごくシンプルなところです。結局、長期できちんと超過利潤を出してれば、あとは全部、いいことが同時に起きます。あんまり余計なことを考えず、そこだけ考えればいいのではないかと私は思うんです。