ESGに熱心なCEOを辞めさせた
投資家はひどいのか?

中神 私はあの新聞を読んで、「投資家というものはひどい」という論調になっているのがおもしろいなと思いました。ダノンはESGを追求していましたが、業績はネスレと比べてあまりぱっとしなかった。それをとらまえて、「いいことをしていたのに、アクティビストに言われて辞めさせられた、投資家はひどい」となるのがおもしろかった。

 いやいやちょっと待ってください、なぜクビになったのかというと、直接的には株主が言ったのかもしれませんが、実際のところ、業績が上がってなかったからですよね。業績が明らかに他社と比べても上がってなかったからですよね。それなら仕方がないのではないですか。投資家はリターンが上がらないといけない仕事で、ダノンはそのリターンが上げられなかった。この流れはぐうの音も出ないロジックのはずなんです。

 問題にすべきは、ESGに取り組んでいても業績が上がらなかったことです。そこを直視し、問わなければいけません。問うべきは株式市場ではなくて顧客市場です。つまり、ESGに取り組んでも業績が上がらなかったということは、顧客市場がうまく機能していないか、間違った取り組みをしていたから業績が上がらなかったかのどちらかのはずなんです。

 いずれにしても、株式市場が悪いというのは本当でしょうか。もう一度言います、ダノンはESGを追求しましたが、業績が上がりませんでした。業績が上がらなかったから、株主から責められました。そしてCEOが辞任しました。

 この一連の流れの中で、株式市場側のロジックはおかしくないはずです。なぜなら、いくらきれいごとを言っていたとしても、業績が上がっていないからです。

楠木 私はダノンの件についてきちんと見てないので、はっきりと言えないところは申し訳ないのですが、結局、ESGの名の下に何をしていたのかということこそ問われるべきですね。

 例えば今日、ゴールドマン・サックスからいただいたこの水のパッケージには、「サステナブルアンドリサイカブル」と書いてあります。これはESGの取り組みです。とはいえ、小さい話ですよね。

 こういった良いことをしていますということがレポートに出てくるタイプの取り組みではなくて、本当にインパクトを世の中に出すためには、本業のど真ん中でESGに取り組まないといけません

 企業が一番得意とするところでないとスケールしないというか、投資が活きません。だから本来であれば、事業のど真ん中でESGに取り組む。ESGに取り組んでいるのに、業績はどうなんだと問われるのであれば、そもそも本業に問題があります。結局、そこだと思うんですよね。

中神 私もまったく同感です。ESGに取り組んでも業績が出なかったとすれば、取り掛かっている社会問題がちっとも深刻なものではないということです。どうでもいいものに一生懸命力を注いで、私たちはESGに取り組んでいますといったところで、顧客からしたらそんな取り組み分だけプレミアムが乗っかったものを購入する必要はないわけです。それでは儲からないですね。

 一方で、みなが本当に困っている社会課題に正しくソリューションを提供しているのであれば、それは評価されて業績が上がるはずなんです。ですから、ダノンがESGに取り組んでいましたが業績が上がりませんでしたというのは、絶対、ESGの取り組みと業績の間に何かおかしいことがあります。責められるべきは株式投資家ですか? それとも経営者でしょうか?

清水 EやSの攻めるべきポイントを間違えて株主価値をつくれていないというのは、根底にガバナンスの不備があるという事なんでしょうね。