人材育成場面での「自己効力感」への向き合い方

「自己肯定感」に注目する人材採用とは異なり、企業の組織においては、メンバーの「自己効力感」を高めていく工夫が必要だろう。

 本人がその体験を成功と感じたか失敗と感じたかによって「自己効力感」は変化していくので、体験が本人にとっての良いものになるよう、周りの者が演出することも方法のひとつである。「演出」といっても、本人の意思を無視したり、噓をついたりという意味ではなく、日常の仕事環境や人間関係を整えたうえで、「良い体験だった」と思うように調整することだ。

「自己効力感」は、「自身が達成した経験」「周辺の人物の経験を見ること」「言葉による励まし」などで高くなるといわれている。体験の達成感は主観的なものなので、「独力で完遂した」という大仰なものでなくとも、さまざまな場面で、本人が「うまくいった」と思う体験はたくさんあるだろう。その一方で、どんなに順調に進んでも満足のいく成果を得られなかったり、周りからの評価が振るわなかったりすれば、「うまくいかなかった」と思う体験になる。

 たとえば、「精いっぱいに頑張った」という気持ちが本人にあったとしても、経験豊富な上司から見れば「まだまだ至らず」はよくあることだ。「自己効力感」の醸成という意味では、「頑張った」という評価で収めたほうがよく、「もっと頑張れたのでは?」というフィードバックは悪手と言える。ただ、仕事のできる範囲を増やすために体験の評価を厳しくフィードバックする方針もあるだろう。また、「頑張った」という過程ではなく、成果の有無での評価もあるが、成果という着地点からだけではなく、経緯や努力の有無といった過程の評価を通じて、本人が「良い体験だった」と振り返れる演出も重要ではないか。小さな成功体験を積み上げ、「自己効力感」を高めていくことが行動力を持つビジネスパーソンを育てることに繋がるのである。

 冒頭で紹介した教育再生実行会議の提言では、「自己肯定感」のひとつを「勉強やスポーツ等を通じて他者と競い合うなど、自らの力の向上に向けて努力することで得られる達成感や他者からの評価等を通じて育まれる」ものとしていた。しかし、営業部員の社内競争や業績評価は、「競う」という体験よりも、「勝つ」という目的が主になる傾向もあるため、結果次第では本人の自信が下がることもあり、未知の仕事に対する行動力も薄れる可能性がある。管理職は、「自己効力感」というものは下がりやすく上がりにくいことを認識し、部下をはじめとした従業員の「良い体験」をつくることが役割のひとつになるだろう。