世界は、平和で満ち足りていた。しかしながら、全知全能と思われるオーバーロードの前に宗教は消滅し(宗教の起源が人工的に造られたものであることが暴かれ、神秘性が失われたため)、科学的探究は停滞し(すでにオーバーロードが知っていることを今さら探究するのは無意味で悲しいことである。宇宙への進出はオーバーロードによって止められた)、文化的活動は衰退した(平和で満ち足りた社会は、文化的活動を揺籃する装置にはなりにくい)。

 ここに、人類の誰もが感じる疑問が1つあった。それは、オーバーロードはなぜ地球に来たのか、何を目的に存在しているのかということである。それは100年間明かされることはなかったが、最後にオーバーロードの総督によってその理由が語られる。

人類は個のない「ネオ人類」に進化
それをうらやむオーバーロード

 実はオーバーロードは、さらに上位の概念であるオーバーマインドからの指令で、人類が未成熟な段階を終えて進化するまでの一定期間を見守る役割を担っていた。オーバーマインドが地球にオーバーロードを遣わしたのは、人間が心霊物理学(サイキックパワーの世界、大雑把に言えばスピリチュアルな世界)を面白おかしく探究し始めており、それが全宇宙を大混乱に陥れる恐れがあり、監視させるためだったという。

 オーバーロードに任されたもう1つの重要な役割は、人類が心霊物理学を適正に使いこなし、集合意識はあるが個がない、新しい人類(ここではネオ人類と言っておこう)に進化するのを見守るという役割である。

 実は、オーバーロードは科学的な意味では極度に発展しているが、なんらかの理由でさらに大きな力を持つ心霊物理学を使う種に進化することができない。個の意識があり、優れた知性を持つが、そこが終点なのである。一方、オーバーマインドは心霊物理学を駆使し、個を持たず、全体的な統一体として宇宙に君臨する。