大塚俊哉医師ニューハート・ワタナベ国際病院(東京都杉並区)の大塚俊哉医師(同病院ウルフ-オオツカ低侵襲心房細動手術センター長)

 コロナ禍が始まってもうすぐ2年。この間、持病を抱えていたり体調に不安があったりしても、「感染が怖くて受診を控えてしまった」という人が少なからずいたと聞く。

 我慢していればそのうち治るような病気や、放置しても悪化しない病気ならそれもいいかもしれない。しかし中には、受診を控えたせいで突然予期せぬ不幸な結果をもたらし得る病気もある。そうした病気の代表格が、心房細動だ。

 心房細動の特徴的な症状は、頻脈(ひんみゃく)や徐脈(じょみゃく)といって脈が速すぎたり遅すぎたりするいわゆる「不整脈」だが、最大の問題は致死的な、あるいは非常に重症化することが多い「血栓性脳梗塞」を引き起こしてしまう恐ろしい“脳の病気”であることだ。つまり、心臓の病気でありながら、重大な脳の病気の原因になってしまうのである。

 この病気の診断と治療の名手である大塚俊哉医師は次のように語る。

「心房細動で一番怖いのは脳梗塞を起こすことです。長嶋茂雄元巨人軍監督やイビチャ・オシム元サッカー日本代表監督、故小渕恵三元首相は、心房細動による脳梗塞だったとみられています。患者数は高齢化に伴ってどんどん増加しており、日本で100万人以上いるともいわれています。

 血栓性脳梗塞では、血液を固めにくくする抗凝固剤(ワーファリンなど)を一生飲み続けることが一般的な予防法ですが、『定期的にもらっている薬が切れたけど、コロナが怖いからまあいいや』とか、『なんか胸がドキドキすることがあるけど、いつの間にか収まるから受診はコロナ禍が収束してからにしよう』なんて言っているうちに、突然脳梗塞を起こす。心房細動性の血管性脳梗塞は重症になりやすい上に致死率も高い。6~7人に1人は亡くなるし、重い後遺症も残ります。
 
 そういう意味では、受診控えや自己判断による休薬は非常に危険です」

ハイリスクは「親兄弟が脳梗塞」
「自分は睡眠時無呼吸症候群」など

 心臓と脳は離れているのに、どうして脳梗塞を起こしてしまうのだろう。

「心房細動は脈が速い(異常に遅いこともある)乱れ打ち状態となって、強い動悸が感じられます。心房細動になった途端、心房(心臓の4つの部屋のうちの2つ)の血流が停滞して血栓(血液の塊)ができやすくなります。

 血栓の99%は、左心房から出っ張った『左心耳(さしんじ)』というところにできます。この血栓が血液の流れに乗って脳に飛び、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を起こすのです。また、脳梗塞を起こすほどの大きな血栓でなくとも、微細な血栓が脳に移動して認知症やうつ病の原因になるという見方も、最近濃厚になってきました」

 発症リスクは高齢になるほど高まるが、リスク要因はほかにもある。