管理職に徹底している“1on1”のトレーニング
永田 ここまで新人教育のお話をうかがってきましたが、御社では部長、課長、係長、リーダーなどが、新入社員、異動してきた人、昇格基準者、昇格したばかりの人などを対象にして1on1ミーティングを行うためのトレーニングにも着手されました。管理職だけでなく、OJTリーダーを経験した人たちも、そのまま終わってしまうのはもったいないということで、この研修に参加してブラッシュアップしてもらうことができるそうですね。
秋山 はい。1on1も経験学習をまわすためのツールですから、各グループ会社の管理職クラスにはぜひトレーニングしていただきたいと思っています。昨年から少しずつトライアルを始めたところで、来年から5年ほどかけてグループ会社全体に広めていく予定です。
永田 新入社員には入り口のところで経験学習サイクルをまわすことを学んでもらい、管理職クラスには1on1を通して経験学習を学んでもらうという構図ですね。
秋山 基本的に学んでいることは同じでして、20名ほどを相手に懇切丁寧に教えているのが新人教育です。1on1は実施する上司・部下をまず初めに登録してもらっています。現在は上司・部下約400名が2週間~1カ月に1回の1on1を実施しています。下からと上からと、双方で経験学習を促進することで、社内文化が少しずつ変わってくることを期待しています。
永田 1on1はトレーニングをしてから臨まなければ、かえって関係が悪くなることもあるとうかがいました。御社では、上司側が必ず1on1のトレーニングを受ける仕組みをつくっていますね。
秋山 はい。Zoomを使った2時間の研修を4カ月連続で受けていただいています。学んだことをもとに部下に対して1on1を実施してもらい、翌月にそのフィードバックを持ち寄りながら、また新しいことを習うという形です。それだけではなかなか身につかないので、エリアごとにコーチの資格を持っている社員を配置して、上司側の管理職と1on1を行ってもらうこともあります。さらに、その有資格者が社外のプロコーチと1on1をすることもあります。いろいろな面をつくりながら進めている状況です。
永田 1on1研修については、昨年から毎月サーベイを実施されていますね。「コミュニケーションは良好ですか?」「部下の悩みを理解していますか?」「成長を感じますか?」「適切な仕事で成長の機会を与えてもらっていますか?」「信頼関係はありますか?」といった項目があり、去年(2020年)と比べて今年(2021年)は結果がかなり良いとうかがいました。
秋山 サーベイは、1on1を実施したペアと、登録したものの実施していないペアを比較しているのですが、結果は明らかに実施したペアの方が高いです。たとえば、上司には「部下のいまの悩みを知っていますか?」、部下には「上司はあなたの悩みを知っていますか?」など、上司と部下に同じことを聞いたときに、去年(2020年)は上司の点数が高くて部下の点数が低かったのですが、いまはその点数が逆転したり、高い点数で一致したりしています。部下が「育ててもらっている」「1on1を通して信頼してもらっている」という感覚を持っている、というのはうれしいことです。人と人がきちんと向き合って話をすれば信頼関係が生まれるし、お互いに成長するものなのだなと感じますね。ただ、1on1はツールでしかないので、あくまでも1on1 を通して関係性をつくっていくことが重要だと思います。
永田 1on1ミーティングについては、毎月サーベイを行ってアセスメントしていくことが重要、とよく耳にします。
秋山 「なぜ1on1なんかする必要があるの?」と思っている上司・部下も、このサーベイに答えることによって、1on1の意義がわかるようになることがあります。実は、そこにサーベイの裏の目的があるのです。
永田 1on1ミーティングのトレーニングについて、今後の課題は何でしょう?
秋山 部下側にも「なぜ1on1が必要なのか?」ということを、もっとしっかり腹落ちさせたいと思っています。「上司に怒られると困るから、当たり障りのない話題を選んでいます」などと言う部下も時々おりますので。受ける部下側にも、受けるための教育を今後実施することも検討しています。