心の声に耳を傾けることが大切

『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)榎本博明『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)

 このような心理状態に陥ると、一時的に生活に乱れが生じ、仕事の能率が落ちたり、私生活でもトラブルが生じたりしがちだが、自分の生活の現状に疑問を抱き、より自分らしい人生、より納得のいく人生に向けて修正しようとする衝動は、きわめて健全な心の動きと言える。

 私たちは、自己形成の途上でさまざまな決断を迫られるが、ある道を選ぶことは他の可能性の道を閉ざすことになる。

 そこで、今の生活が納得のいかないものであったり、退屈なものであったりするとき、

「やっぱり選択を間違えたんじゃないだろうか?」

 といった心の声が聞こえてくる。

 特に、親の反対にあって断念したことや、家族の生活を支えるために断念したことがある場合、人生の折り返し点に至って、

「これを埋もれさせたままで突き進んでしまって、いいんだろうか?」
「やり直すなら一刻も早くしないと」

 といった心の声が聞こえてきたりする。

 誰かのために断念したというわけではなく、それぞれの時点で最善の選択をしたと思っている場合であっても、

「やり残したことがあるのではないか?」
「これまでの人生で、何か忘れ物をしているのではないか?」

 といった思いに駆られたりする。

 こうした心の声にフタをして、今の人生軌道をそのまま突っ走ってしまうと、後で大きな後悔に苛まれることもある。そうかといって、心の声をきっかけに今の生活を捨て去るようなことをしても、取り返しのつかないことにもなりかねない。ここは心の声に耳を傾けながら、今の生活をどのように軌道修正すれば、より自分らしい人生になるか、どんな味付けをするのがよいか、じっくり悩んでみるべきではないだろうか。