こうしたメタバースの概念は、デジタルの世界ではパソコン向けのアプリケーション応用例として、これまでの多くのベンダーが取り組んできた。日本では1990年に富士通が「FM-TOWNS」向けアプリケーションとして「富士通Habitat(ハビタット)」というサービスを提供し、パソコン通信を経由してユーザー同士がアバターでやりとりをするというサービスが提供されていた。

 2000年代前半に登場し、注目を集めたサービスがリンデン・ラボの「セカンドライフ」だ。インターネット上に構築された仮想世界で、ユーザーが現実と同じように生活するというコンセプト。ユーザーはアバターになって仮想通貨を使って店で買い物をするなど、第二の人生を仮想空間で送ることができるとして、一時は社会現象になるほどの注目を集めた。

 しかし、いずれのサービスも定着したかと言うと、正直にいってそうは言いがたい状況だった。セカンドライフは現在でもサービスが継続しているが、話題に上ることはほとんどないというのが現状だろう。これまで何度も、複数のプレーヤーがメタバースに挑戦してきた。何度もブームになりかけては、真に盛り上がり、定着する前にしぼんでしまったというのがこれまでの状況だったと言える。

従来と違うのは、ハードウエアの対応が
この10年で飛躍的に進んだこと

Oculus Riftの登場で、普及価格帯のヘッドマウントディスプレー市場が出来上がった。写真は2014年当時のOculus Rift開発版 Photo by Kazuki KasaharaOculus Riftの登場で、普及価格帯のヘッドマウントディスプレー市場が出来上がった。写真は2014年当時のOculus Rift開発版 Photo by Kazuki Kasahara

 それなのに、なぜ今再びメタバースに注目が集まりつつあるのだろうか? セカンドライフが流行した00年代の前半と、現在の最大の違いは、そうしたメタバースのアプリケーションが必要とするハードウエアが大きく進化したことだ。

 メタバースをソフトウエアにより実現するには、没入感のあるディスプレーとそれに画面を描画するための演算装置(GPU=Graphics Processing Unit)が必要になる。00年代前半にはそうした没入感のあるディスプレーは存在していなかったし、GPUもまだ成長途上で十分な性能を実現できていなかった。