「店内をうろついているホームレスが刃物を持っている」

 ある日、ホームレスのたまり場になってしまった店舗から、応援の依頼が来ました。

 本来、ホームレスに出ていってもらうのは、それほど難しいことではありません。クレームと同様に、ここでも初期対応が肝要です。店内を巡回する店員や警備員がその都度、「ここにいてもらうと他のお客さんに迷惑が掛かります」と、ソフトな口調は保ちつつ、きっぱりと言い渡します。これを淡々と繰り返せばたいていは解決します。

 しかし、見た目だけで判断してホームレスを追い出すことを避けたがる人が多く、迷惑行為に注意をしたり、出ていくよう告げたりする役を引き受ける人は少ないものです。こうしたことから、この店舗ではさまざまな迷惑行為を見て見ぬ振りをしていたようでした。

 私が店舗に到着すると、待っていたようにすぐ警備員から私のPHSに連絡が入りました。

「店内をうろついているホームレスが刃物を持っているようです。対応していただけませんか?」

 突然そう言われても、手ぶらで行くわけにはいきません。「どないしょう?」と思案しながら、とりあえずサービスコーナーでプレゼント用の包装紙を押さえるための50センチぐらいの棒切れを借り受け、それをベルトの背中側に差し、上着で隠して現場に向かいました。警察官時代と違い、相棒すらいません。その時の相棒は文字通り「棒きれ」しかいなかったのです。