急激な変化にたじろがない
変わり身の速さが武器

 先を読もうとするのではなく、変化に機敏に対応するのがキングジムスタイル。「変化は今後も起こる。そのときにいかにすばやく商品を出すか、それだけを考えています」と宮本社長は語る。

「変化はチャンスだと思います。逆に言えば、変化がないと我々のような中小企業にチャンスは巡ってきません。コロナ禍のように、これだけ世の中が急激に変わったら、我々のように変わり身の早い会社にとってはラッキーです。あれもこれもやろうとアイデアが浮かび、開発部門は活性化しますね」

 コロナ禍も収束の兆しが見える中、フェイスシールドの売れ行きは下がってきたという。その一方で、「慌てて作った」というCO2が測定できるモニターの販売数は右肩上がりだ。しかし、慌ててでも作れるのは、これまでの歴史があってのことだ。

「いろいろな商品を手掛けてきたので、それぞれの分野の底地ができているのも強みかもしれません。紙、プラスチック、木材、金属、木、ありとあらゆる材料の仕入れルートや製造委託先とのコネクションがあります。条件さえそろえば、あとは工夫次第で何でも作れますよ」

 また、最近感じる若者たちの変化も、キングジムにとっては追い風になっている。

「ブランド志向がなくなってきていますよね。これって中小企業にすごくチャンスがあるってことですよ。従来であれば大手家電メーカーの商品しか売れなかったようなものでも、デザインが良かったり、おしゃれだったり、個人の嗜好(しこう)に刺されば買ってくれるんです。2021年10月にM&Aで、加湿器などの生活家電やルームフレグランスなどの日用雑貨を販売するライフオンプロダクツがキングジムグループに参画しましたが、こうした日用雑貨はこれからますます需要が高まると思っています」

「時代に遅れたくない」――宮本社長自身のこだわりはそこにある。

 キングジムといえば、公式ツイッターが話題になって久しい。2020年3月には「中の人」が書籍『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』を出版したほどだ。実はこれ、もともとはツイッター黎明期に宮本社長が個人的にツイッターを始めたことがきっかけだという。

「新しいものを知ろうとしないのが、年寄りの一番まずいところですよね。私、ポケモンGOが発売されたときなんかは、新しい文化が生まれそうな気がして、率先して遊びましたよ。単に好奇心が強いだけかもしれませんが(笑)」

 オフィス文具や事務用品で名をはせたキングジム。「何屋か分からない」独特な存在感を発揮する小さな巨人は、リアリスティックな経営方針と、多様性を地でいく開発力で100年に1度のパンデミックをサバイブしていた。