クラブがベテラン選手に
「ゼロ円」を提示する理由

 クラブが「ゼロ円」を提示する背景には、さまざまな理由がある。特にベテランと呼ばれる領域に入れば、毎年加入してくる若手選手の台頭に伴うチーム内の新陳代謝に、加齢によるパフォーマンスやフィジカル能力の低下などが加わる場合が多い。

 今シーズンの槙野は、センターバックに故障者や離脱者が相次いだ関係で2月の開幕からフル回転。夏場以降は新加入の元デンマーク代表、アレクサンダー・ショルツにポジションを奪われたが、それでも先発フル出場は「25」を数えている。

 浦和に寄与した自負と、まだまだできるという自信が、来シーズン以降の契約延長を信じさせて疑わなかったのだろう。だからこそ、11月5日に設けられた交渉の席で提示された「ゼロ円」に驚きを隠せず、オンライン会見でも涙腺を緩ませた。

 しかし、槙野の退団発表前に、キャプテンを務める40歳のレジェンド、MF阿部勇樹の今シーズン限りでの現役引退が発表され、槙野の退団発表後には、2010年から浦和一筋でプレーしてきた33歳のDF宇賀神友弥の契約満了に伴う退団が、相次いで発表された。

 一つの時代の終焉(しゅうえん)を告げる功労者の退団。今シーズンから浦和を率いるスペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督は「クラブとしても監督としても、プロとして決断を下さなければならなかった」と目を潤ませながら言葉を紡いでいる。

「サッカーにはサイクルがあり、すべての選手に引退や退団というタイミングが訪れる。私が来た当初から年齢が高いチームだと感じていた中で、徐々に世代交代を進めながら、未来のレッズをしっかりと作っていかなければいけない」

 断腸の思いで下された浦和の決断を、通告直後こそ大きなショックを受けたにせよ、時間の経過とともに槙野も受け入れている。現役続行を表明した上で、引退後のセカンドキャリアで愛してやまない浦和と再び巡り合いたいと力を込めた。

「次の目標として、監督になって帰ってきたい。あの選手を見たいと思ってスタジアムへ行くファン・サポーターは多いと思いますが、新庄剛志さんがプロ野球界を盛り上げているように、あの監督を見にいきたい、あの監督が指揮するチームを見たいと思ってもらえるような監督になって戻ってきたい」