「デジタル・ネイティブ」であるZ世代の価値観は?
Diversity Voyageに参加する学生をはじめ、GiFTとともに歩んでいるのは、「Z世代」と呼ばれる若い世代だ。辰野さんは、彼ら彼女たち「Z世代」をどう見ているのだろう。
辰野 私は「青年育成」の仕事にずっと携わっていますが、いまは、初めてというくらい、若い世代がちやほやされる時代になっています。「ちやほやされる」は決して悪い意味ではありません。たとえば、GiFTの立ち上げの頃は、若者は内向きだと言われていました。「ゆとり世代」という言葉がネガティブな意味を持つこともあり、私の世代はアムラーやコギャルという名称で、いつの時代も若者が大人から見下ろされている感じでした。「若い奴をどうにかせねば」「最近の若い子は……」といったふうに。しかし、未来が不透明になってきたからか、大人による若者への見方が変わってきました。いまの大学生は、「Z世代」としてマーケティング的にも注目されています。当人たちには「Z世代ってカテゴライズされているけど」みたいなとまどいもあるようですが……注目される理由の一つは、彼ら彼女たちが「デジタル・ネイティブ」であるからでしょう。「個の人間としては日本人だけど、デジタルの世界に入ったときのボーダーレス感が強い」と若者たちは言います。
コロナ禍で、辰野さんは、そうした多数の高校生や大学生と講演会場やオンラインで向き合い、「留学や旅行で世界に出たいのに行けません……」といったネガティブな声も聞いている。
辰野 彼ら彼女たちは、スマホやパソコンを開いたら、もうそこにボーダーレスな世界が広がっているのですが、いまは国際線の飛行機になかなか乗れない状態です。それでも、インターネットを通じていろいろな国の人たちとSDGsのプロジェクトを始めたりしています。
また、これはコロナとは関係ありませんが、英語力が格段に上がっていることも見逃せません。中学生でも高校生でも、「えっ?こんなにできる?」と、私が驚くことも。もちろん、個人差はありますが、英語を学ぶ機会が増えているのでしょう。英語教育に力を入れている学校も多く、英語で授業を受けることも増えています。ですから、「世界に出たいのに、コロナ禍で行けません」という残念な思いが、英語力を生かしたオンライン・コミュニケーションで少しでも薄まればいいですね。
9日間の現地国・地域での滞在を基本にしている「Diversity Voyage」も、現在はオンラインになっている。今年2021年の夏も2大学、9コースのプログラムを実施し、日本人学生と現地メンバーの計280人ほどが参加したという。
辰野 学生の成長度を測ったアセスメントのデータから分かるのは、オンラインでもリアル(現地での研修)でも差があまりないということです。Diversity Voyageは自分と向き合うことがメインの研修なので、むしろ、PCを閉じたら、自分と向き合わざるを得なくなり、現地で夜中に恋バナするよりも“内省”できるのです。
もちろん、まったく同じ成果が上がるわけではありませんが、オンラインならではのメリットも多いですね。第一に参加費が安くて済むこと。ある学生は、「僕の経済感覚では行けないプログラムが、オンラインだから参加できた」と。二つ目は主催者側の目線ですが、健康被害のリスクがないこと。海外で食べ物が合わずにおなかを壊したり、体調を崩すといったマイナス面がゼロになるので、安心・安全に学生が世界とつながることができます。三つ目は、先ほどお伝えしたように、自己内省が図りやすいこと。オンラインで英語のディスカッションをし、1日のプログラムが終わってPCを閉じた後に、「なぜ、自分はあそこで発言できなかったのだろう」「明日からはどう頑張っていこうか」と深く考えることができます。
もちろん、出国できないデメリットはたくさんあります。現地の空気感やFace to Faceのコミュニケーション、食べ物の匂いや味……そうしたものがもたらす気づきを得られず、別れのハグで湧き出る感情はオンラインからは生まれづらいものでしょう。