計画的に実行してきたはずの生前贈与。しかし、贈与と認められない「名義預金」化に税務署は目を光らせている。特集『生前贈与 駆け込み相続術』(全19回)の#8では、贈与の落とし穴にはまらないための心得を紹介する。(ダイヤモンド編集部 編集委員 名古屋和希)
税務署がマークする贈与
最大の落とし穴「名義預金」
「贈与契約書と通帳を確認させてほしい」。2019年に70代の父親を亡くした千田浩一郎さん(54歳・仮名)はすでに相続税を申告していたが、今秋に税務調査が実施されることになった。
調査時に税務署職員から投げ掛けられたのが冒頭の言葉だ。父親は亡くなる2年前と4年前、千田さん夫婦と千田さんの子3人の計5人に1人当たり300万円を生前贈与していた。贈与総額は計3000万円に上る。
税務署職員が疑ったのが、父親が子や孫の名義で財産を残しただけで、実際にお金は渡しておらず、子や孫も管理していなかったのではないかという点だ。
仮に贈与が無効だと判断されれば、計3000万円は父親の相続財産として相続税が課される。
このケースでは、贈与を受けた家族が自ら管理している通帳である証拠とともに、通帳や贈与契約書を提出して事なきを得た。しかし、いかに税務当局が贈与に目を光らせているかを物語るエピソードといえる。
贈与の最大の落とし穴が子や孫の名義で財産を残す「名義預金」だ。
次のようなケースを想像してみよう。祖父母が自身で管理する子や孫の名義の通帳に、贈与だとして毎年一定額を振り込む──。
こうした例は少なくないかもしれない。だが、実は贈与と認定される可能性は著しく低いのが現実だ。
そもそも贈与はもらう側とあげる側の双方の合意があって成立する。たとえ、通帳が子や孫の名義でも、子や孫が自分で通帳を管理していなかったり、預貯金が引き出せないような状況では、贈与は成立していなかったと見なされる。
実は税務署が名義預金と疑うポイントは主に三つある。