リモートで顔が見えない部下の「主体性」をいかに引き出すか?

 上司のほうは部下の日常を見ることができず、部下のほうはキャリアを見失いかけている――。こうした課題を解決する手段として位置づけられたのが、1on1ミーティングでした。

 もともとMSDでは1on1ミーティングが実施されていましたが、アジャイル組織への移行にあたり、マネジャー層を中心に手厚い研修を繰り返し、対話のスキルを習得させるなど磨き込みました。この点では第2回で紹介したリクルートの取り組みと似ています。

 あるマネジャーは、次のように言います。

「従来の管理職と違うのは、デイリーの業務は管理しないことで、人事上の部下の日常は見ることができません。評価についてのアプローチは、クォーターの期初に目標を設定して、1on1によってどこに注力するかを部下自身に考えてもらいます。以前は、この1on1が本当に部下のパフォーマンスを引き出すのに役立っているかどうか、疑問でもありました。それが今の組織では、意識してコーチング的な関わりをすることになり、部下の主体性が生まれていると感じます」(同書202-203ページ)

 一方、このマネジャーの下にいるメンバーは次のように捉えています。

「上司との関係は変わったと思います。自分で考えなければならない部分が増えました。お題の与えられ方が、よりふわっとしていると思います。自分もそうですし、一緒に働いているスクワッド・メンバーもより広い裁量が与えられているので、メンバーで議論し意思決定したことがダイレクトに活動の方向性に反映されます」(同書205ページ)

 両者のコメントは、正しく響き合っているように感じられます。従来型のヒエラルキー組織でのコミュニケーションと比べて、自主性が自ずと引き出されているようです