「内的キャリア」への意識づけは1on1の大事な役割の1つ

 もう1つの課題であるキャリアについてはどうでしょうか。ここでは、『1on1戦術』でも重点的に解説した「内的キャリア」、つまり部下の動機の源泉への意識づけという1on1が持つ重要な役割が生きてきました。必ずしも社内での地位などに紐づかない、先々の展望や仕事への価値観を描くことを可能にしたのです。

 この点について、前出のマネジャーは次のように言います。

「研修で教えていただいたフレームワークをメンバーとも共有しました。お互いの価値観を知ることができ、私とメンバーとの間の関係性が深まったと思います」(同書206ページ)

 これに呼応するようにメンバーも言います。

「過去を振り返ることで、“今後はこういう能力開発をしたい”という方向性が浮かび上がり、結果自身の未来について再認識するいい機会になったと思います」(同書206ページ)

 部下の日常を見ることができないアジャイル組織での上下関係は、そのままコロナ禍で顔を合わせる機会が減ったすべての職場の上下関係と同じです。MSDの事例は、そんな状況でも1on1を正しく活用すれば、部下の主体性を引き出すこと、そして内的キャリアへの意識づけを行うことも可能だと教えてくれます。

 導入を担った人事責任者は、こう言います。

「1on1は、以前であれば業務の話をすることが多かったはず。それだけではないのだ、ということが伝えられた意義は大きいと思います」(同書215ページ)