年末年始は1年を総括し、気持ちを新たに次の1年の豊富を練るのに最適なタイミング。優れたリーダーを目指すビジネスパーソンであればなおさら、この時間を無駄に浪費するのは避けたいところだ。
特別連載「リーダーの年末年始」では、今年話題となったマネジメント本の著者に、年末年始との向き合い方について詳しく話を聞いていく。
第3弾は、『課長2.0』の著者である前田鎌利さん。リーダーとして自らをアップデートさせる、理想の年末年始の過ごし方を聞いた。(取材・構成/友清哲)
この1年を3ヵ月スパンで言語化する「1年内観」のメソッド
――昨年に引き続き、2021年は新型コロナウイルスに振り回された1年でしたが、前田さんにとってはどのような1年でしたか。
前田鎌利(以下、前田):個人的にはポジティブにとらえていて、それなりに前進した1年だったと思っています。コロナで人やビジネスを取り巻く環境が変わり、それによって変化したマーケットに対し、どうアプローチしていくかというチャレンジを貪欲に行なうことができて楽しかったですね。
ただ、世間が同じように上向きであったかというとそうではなく、二極化してしまったように感じます。たとえば個々の企業を見ていても、うまく今の状況に適応して業績を伸ばしている会社もあれば、働き方の変化に対応できず戸惑ったまま時間を無駄遣いしてしまった会社もあるでしょう。
――そんな今年、前田さんは『課長2.0』を上梓されました。“課長2.0”を目指す若いマネジメント層は、この年末年始をどのような時間に充てるべきでしょうか?
前田:年末年始というのは多くの人にとって、振り返りの時間を設けやすい節目のタイミングです。そこでリーダー層にとって大切なのは、自分自身のことだけでなく、部下やメンバーの来年についてもちゃんと思考を巡らせておくことです。
来年、メンバーをどうデザインしていくか、ひいては組織をいかにデザインしていくのか。つまり自分、メンバー、組織の3つの視点で振り返りと展望する時間を持たなければなりません。
――まさしく『課長2.0』の中でもおっしゃっている、内観の時間に充てるべきである、と。
前田:そうですね。昨年の年末年始に比べれば、少なくとも国内においては場所を変えてリフレッシュするようなこともやりやすくなっていると思いますから、まずは休んで心身をリセットし、その上で内観の時間を設けることをおすすめします。こうしたまとまったお休みがなければ、なかなか思考をいったんゼロベースに戻すことも難しいですからね。
その上で、ぜひ実践していただきたいのが「1年内観」です。これは私自身が毎年恒例にしていることでもありますし、書を教えている生徒の皆様にも毎年やってもらっている振り返りの作法です。
まず、この1年間を3ヵ月ごとに分け、それぞれその時期に何があったか、具体的な事象を箇条書きで綴っていきます。そしてその3ヵ月について、一文字の漢字で表してみてください。1年の流れが見えてくると思います。
――一文字の漢字で表現するというのがポイントですね。時期ごとに総括することで、自分にとってどういう1年だったのかが浮き彫りになります。
前田:漢字というのは表意文字なので、それだけで意味が明確になり、振り返りと目標が明確化する効果があるんです。
3ヵ月ごとの振り返りを終えたら、さらに1年間(2021年)を通しての漢字を一文字で表し、同じくその理由を書いてみます。同様に、来年(2022年)をどんな年にしたいかをやはり漢字一文字で表現し、その理由を書いてみましょう。
これは頭の中を整理するのにも役立ちますし、自然と来年の道標が定まるので、やる気が湧いてくると思いますよ。
節目の年末にすべて出しきり、乾いた状態で新年を迎える
――そうした恒例行事のほか、この年末年始はどのように過ごされる予定ですか?
前田:我が家は国内で家族と過ごすのが通例で、三が日はなるべく家族で過ごして、進学のことや将来のことなどをじっくり話す時間に充てるよう心がけています。子どもたちも中学2年生と小学5年生になり、日頃はそれぞれ部活やら何やら忙しくしていますから、このタイミングを逃すとなかなか対話をする時間が取れないですからね。
一方で、僕自身は会社員だった頃と違って、今はあまりオン・オフの切り替えというのは意識していません。強いてあげれば、本を読んだり旅をしたり、何らかのインプットに費やす時間がプライベートで、そのアウトプットを行なうのがビジネスの場、とイメージしています。
――経営者であり書家でもある前田さんの場合、ビジネスと芸術、2つのアウトプット先があると思います。これらはどう使い分けていますか。
前田:インプットもアウトプットも、結局は自分という1人の人間から出入りするものなので、とくに使い分けを意識することはありません。事業も書も、僕としてはツールが異なるだけで、まったく同じことをやっている感覚なんです。たとえば何らかのメッセージを発信する際、それを文書としてクライアントに伝えるか、書として形にするかは、その時々の必要性によるわけです。
ただ、インプットのことで言うと、仕事でもプライベートでも、日頃から出し惜しみなく全力を尽くし、自分を乾いた状態に保つことは大切だと僕は思っています。本を著す場合でも、自分の知見や経験が誰かのお役に立てるのであれば、その時点で持っているものを余すことなく投じるべきです。そうして乾いた状態になると、新しいインプットに対して敏感になり、それが溜まってくると次のチャレンジへの源泉となります。
――そうなると、日頃からいかに出し切り、上手に乾いた状態をつくることが重要ですね。
前田:そうですね。その意味では師走というタイミングはうってつけで、否が応でも節目が近づき忙しくなるこの時期に、気を抜かず全力を尽くして自分の中を空っぽにしてしまえばいいんです。そうすれば、年末年始のまとまった休みには、来年の武器として使える有意義なインプットが得られるようになるでしょう。
――ますます、年末年始をだらだら過ごしてはならないなと、気が引き締まる思いです。
前田:先ほどの「1年内観」などは気持ちを整えるのにも最適なので、ぜひトライしてみてほしいですね。より本格的にやるのであれば、書き初めに挑戦してみるのもいいですよ。1月2日に恵方(来年は北北西やや北)を向いて書くのが古代からの習わしで、来年の展望をイメージした漢字一文字と向き合ってみれば、だらだら寝正月を過ごす気持ちも吹き飛んでしまうのでは?
――では、そうして備えた来年は、ビジネスパーソンにとってどのような年になると予想していますか。
前田:コロナの新たな変異株もまだまだ登場するでしょうし、リモートワークはこのまま定着するでしょう。でもこれは、リモートでもリアルでも環境に合った働き方が選べるということでもあり、企業にとってはメリットと言えます。
一方でリーダー的立場の人にとっては、そうした環境下でメンバーとの信頼関係をどう構築するかが重要です。これはつまり、安心して任せられる関係がつくれるかどうかです。リーダーは任せ、メンバーは任される。この構図が確立してこそ組織は自走します。
そのためにリーダーは、リモートワーク時代ならではのマネジメントを意識する必要があるでしょう。年末年始がそのヒントを得る時間になれば理想的ですね。
株式会社識学 代表取締役社長
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。