年末年始は1年を総括し、気持ちを新たに次の1年の豊富を練るのに最適なタイミング。優れたリーダーを目指すビジネスパーソンであればなおさら、この時間を無駄に浪費するのは避けたいところだ。
特別連載「リーダーの年末年始」では、今年話題となったマネジメント本の著者に、年末年始との向き合い方について詳しく話を聞いていく。
第4弾は、『武器としての組織心理学』の著者である、立命館大学教授の山浦一保さん。リーダーとして自らをアップデートさせる、理想の年末年始の過ごし方を聞いた。(取材・構成/友清哲)
スペイン滞在経験で「休む」ことの意義を再認識
――年末年始が近づいて参りました。様々なタイプのリーダーと接してきて、「休む」ことについての考え方、あるいは「休み方」について、何か共通点はありますか?
山浦一保(以下、山浦):あると思います。優れたリーダーは物事の優先順位をしっかり判断している人が多く、それゆえに仕事以外にあてる時間の割り振りが、非常に巧みであると感じます。たとえば人と関わる時間を惜しまず、積極的に社交に時間を割いたり、あるいは家族と過ごす時間や趣味の時間を持つなど、自分がリラックスできる自由時間をちゃんと確保している人が多い印象ですね。
――では、休むことの役割について山浦さんはどう考えていますか。
山浦:私自身、休むのが下手でそれが長らく悩みの種だったのですが、4年前にサバティカル研修(研究目標を定めて、一定期間研究に専念する研修)で7ヵ月ほどスペインに滞在したことで、休息の重要性を強く認識するようになりました。
向こうは日本とは生活習慣がまったく異なっていて、たとえばスペインの人というのは、食事や軽食を1日に4食も5食もとるんですよ。自宅で朝食をとって研究室へ行くと、早くも10時にはコーヒーブレイクに誘われ、その後、14時ごろランチへ行きます。そして17時にまたコーヒータイムがあって、20時に夕食。そんなサイクルが当たり前なんです。
――1日中、食べっぱなしですね。
山浦:私はとてもそんなに食べられませんでしたが、それでも彼らと過ごす時間は楽しくて、まめに参加するようにしていたんです。すると、そうした頻繁なコーヒーブレイクが、彼らにとっては大切なコミュニケーションの場で、スペインの人々がコミュニティを非常に重視していることが理解できましたね。
――逆にそれ以外の時間については、集中して仕事をしているんですか?
山浦:そうですね、すごくメリハリが利いています。お祭りの期間は大学も完全にシャットアウトされてしまうなど、とにかく休む時は徹底的に休むのが向こうの流儀で、その代わりにやるべき時には集中して仕事をするスタイルなんです。正直、もっとラフな国民性をイメージしていたので、これには少し驚きました。
もっとも、月曜から「次の週末は何をしよう」という話題も多くて、遊ぶこと、休むことには積極的なように見えました(笑)。
――『武器としての組織心理学』では、組織のマネジメント法について学術的なエビデンスが多数紹介されましたが、そうしたオン・オフの切り替えについても何らかのデータが存在していますか?
山浦:それについては、ランチタイムの間もずっと仕事のことを考えていたり、頭を働かせっぱなしでいると、午後のストレスが増すことがわかっています。ランチタイムは気持ちをゆるめて一息つくのがいいのでしょうね。
ちなみにランチタイムにコーヒーなどを飲むことで、ネガティブな感情が低下するというデータがあります。ランチタイムには仕事から一度離れたり、日常のルーティンとは異なる活動をすることが、気分を安定させたり、精神的に良い状態を維持するのに役立つのでしょう。[1]
「一年の計は元旦にあり」は事実
――では、休むことの効果についてはいかがでしょう。
山浦:それについても、週末の過ごし方とメンタルヘルスの関連性を示したデータが存在しているので、これが年末年始の参考になるのではないでしょうか。
たとえば週末に仕事について肯定的な振り返りを行なうと、週明けにはさらなる学習機会を求めるポジティブな状態になることや、ボランティアなど仕事以外の社会的活動に時間を費やすことで、やはり週明けのパフォーマンスが上がったりすることが、研究によって実証されています。
その反面、仕事以外のストレスにさらされて週末を過ごすと、週明けの精神状態が著しく悪化し、課題の遂行に悪影響を及ぼすこともわかっています。つまり家族やパートナーとの折り合いが悪い人は、週明けのパフォーマンスが下がりがちで、意欲的に活動できなくなってしまうということですね。[2]年末年始も同様で、リフレッシュすることを心掛けつつ、2021年をポジティブに振り返ってみることが、メンタルヘルスを向上し、年明けから生産的に働くうえで重要でしょう。
――山浦さんご自身は、年末年始のまとまった休みをどのように過ごされる予定ですか。
山浦:ここ数年は実家に戻って徹底的に休むのが恒例になっています。ほとんど動かず、テレビを見たり家族とおしゃべりをしたりしているので、1日の歩数が10歩程度ということも少なくありません。おそらく今年もそうなるでしょう(笑)。
――仕事のことは完全に忘れて、リフレッシュに専念する、と。
山浦:ただ、精神安定剤代わりに、仕事は少し持ち帰ると思います。結局いっさい仕事をせずに休みを終えることも多いですが、急に必要が生じたときに仕事道具が手元になかったらどうしようと不安になってしまうので。要は、仕事をしようと思えばできるけどやらない状態が、私にとって最もリラックスできるわけです。このあたりは人それぞれ性分があるでしょうから、うまくマネジメントしてほしいですね。
――こうしたまとまった休みに、本を読もうと考える人も多いと思います。何かお勧めの本はありますか。
山浦:たしかにこの時期は一気に本を読むチャンスでもあると思いますが、そう気負わなくてもいいと思いますよ。実際、私は最近、学生たちにも特定のタイトルを勧めることはしていなくて、研究室にある本は「自由に読んでいいよ」と開放しているんです。興味の端緒は人それぞれなので、タイトルや表紙、帯のコピーなど、いろいろ見ている中で関心が湧いたものを手にすればそれでいいと思っています。
もしリーダーシップについて学びたいのであれば、極端な話、漫画や昔話などにもそのエッセンスは散りばめられているわけですから、お正月休みを漫画ばかり読んで過ごすことだって、決して悪いことはありません。
――では最後に、世のリーダー、あるいはリーダー候補の皆さんに向け、年末年始を有意義に過ごすためのアドバイスをいただけないでしょうか。
山浦:自分が来年何をやりたいのか、あらためて整理するにはいい節目なのではないでしょうか。そして自分が来年、何をやりたいのか、何を成し遂げたいのか、1つでもいいから考えて言語化してみることをお勧めします。
思いを言語化することは重要で、私はリーダーシップ研修などでも目標や目的は必ず宣言してもらうようにしています。そうすることで明確な変化、成長が得られるということは、古くから多くの研究で証明されていますからね。
面白いもので、ことわざや故事、あるいは海外の神話などには、心理学的な真理が解かれているものが少なくありません。「一年の計は元旦にあり」もそのひとつ。リフレッシュすることを意識しながら、心機一転、来年について考えてみてください。
脚注:
[1]Kim, S., Park, Y., & Niu, A. Q.(2017). Micro-break activities at work to recover from daily work demands. Journal of Organizational Behavior, 38, 28-44.
[2]Fritz, C., & Sonnentag, S.(2005). Recovery, health, and job performance: effects of weekend experiences. Journal of occupational health psychology, 10(3), 187.
立命館大学スポーツ健康科学部教授
専門は、産業・組織心理学、社会心理学。企業やスポーツチームにおける「リーダーシップ」と「人間関係構築」に関する心理学研究に従事。福知山線脱線事故直後のJR西日本や、経営破綻直後のJALをはじめ、これまでに数多くの組織調査を現場で実施。個人がいきいきと働きながら組織が成果を上げるために、上司と部下はどのような関係を構築すればよいのか、理論と現場調査の両面から解明を試み続ける。