『課長2.0』の著者・前田鎌利氏と、注目の最新刊『若手育成の教科書』の著者・曽山哲人氏の対談が実現した。テーマは「若手を育てるための管理職の思考法」。曽山氏は、株式会社サイバーエージェントで10年間、人事本部長を務め、20以上の新しい人事制度や仕組みを導入。のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わってきた。リアルワークとリモートワークのハイブリッド型のワークスタイルが一般化している中、若手育成の「質」を落とさず、さらに高めていくために、管理職は何を考えていけばよいのか。お二人に語り合っていただいた。【構成・前田浩弥、写真・榊智朗】

サイバーエージェントが若手社員を育てる「2:1の法則」とは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

リモートワークで「若手を育てる」仕組みとは?

曽山哲人さん(以下、曽山) 前田さんは、弊社社長の藤田晋と高校時代からのお付き合いなんですって?

前田鎌利さん(以下、前田) そうなんですよ。地元・福井県の県立高校の同級生で。一緒に麻雀をやったりしていました(笑)。

曽山 おお、そんなに深いお付き合いだったんですね。そのころの裏話を掘り下げたい欲求に駆られます(笑)。

前田 いやいや、あまりペラペラしゃべると藤田さんに怒られちゃいますよ(笑)。ところで今、サイバーエージェントさんはリモート出社が主流なんですか?

曽山 リアルが週3日、リモートが週2日です。全員共通で原則、月・水・金は出社日、火・木は「リモデイ」と呼ぶリモートと定めているんです。各社員が“まだら”でリモートワークをすると、せっかく出社した社員が「この人はいるけど、あの人はいないから結局、仕事が進まない」ということになりかねませんから。

サイバーエージェントが若手社員を育てる「2:1の法則」とは?曽山哲人(そやま・てつひと)
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO
1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。1998年伊勢丹に入社、紳士服部門配属とともに通販サイト立ち上げに参加。1999年、社員数が20人程度だったサイバーエージェントにインターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。2020年より現職。著書は『強みを活かす』(PHPビジネス新書)、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)、『クリエイティブ人事』(光文社新書、共著)等。ビジネス系ユーチューバー「ソヤマン」として情報発信もしている。2005年の人事本部長就任より10年で20以上の新しい人事制度や仕組みを導入、のべ3000人以上の採用に関わり、300人以上の管理職育成に携わる。毎年1000人の社員とリアルおよびリモートでの交流をおこない、10年で3500人以上の学生とマンツーマンで対話するなど、若手との接点も多い。若手の抜擢に力を入れているサイバーエージェントでは、20~30代でグループ会社の社長に就任した社員は46人、うち20代での社長就任は25人(2019年1月末時点、孫会社を除く子会社56社中)。20代の管理職は100人以上(2020年9月末時点)。「20代の成長環境」がある企業ランキングでは4位(2020年、エン・ジャパン調査)に選ばれる。最新作『若手育成の教科書』(ダイヤモンド社)が発売即大重版となった。

前田 なるほど。

曽山 くわえて申請してもらえればリモートワークはいつでもOKにしています。ただ最大公約数の人が働きやすくするには、「出社日」と「リモート日」をそろえたほうがいいだろうと考えて、このようにしています。

前田 2020年4月に、1回目の緊急事態宣言が出たときは、全社員フルリモートだったとお伺いしました。そのときはマネジメントも相当難しかったですよね?

曽山 難しかったですね。マネジメントする課長からも、若手を教育する先輩社員からも、若手社員からも、全方位から「困っている」「難しい」という声が常に上がっていました。だから、前田さんがリモート・マネジメントについて深掘りした『課長2.0』を出されたのは、実にタイムリーだったと思いますし、非常に多くの示唆をいただきました。

前田 ありがとうございます。やはり、リモートワークでは、「ビデオオンで会話しているときしか、お互いが見えない」のは大きいですよね。

曽山 そうなんですよね。リモート下では、受け身の情報が本当に入らない。朝、先輩が出社したらまず誰とどんな会話を交わし、どんな電話をかけ、どういうふうに仕事をしているのかといったことが、後輩からはまったく見えない。そうやって先輩の仕事っぷりをリアルに観察することから、多くのことを学んでいたわけです。だから「出社して、もっと先輩の仕事が見たいです」と言う若手社員もいました。

 一方の先輩側からも、「若手社員が本当に困っているときに見つけてあげられない。本人が困っているであろうときに拾えないのは怖い」という声がありました。同じ職場で働いていたら、後輩が困っていたら察知できますからね。リモートワークを経験したことで、「リアルな職場」で当たり前のように享受していた“貴重なメリット”に気付かされたわけです。

前田 なるほど。今回、曽山さんが『若手育成の教科書』を出版されたのは、そういう問題意識もおありだったんですね。

曽山 そうですね。もともと「若手育成」について本を作りたかったのですが、コロナ禍でリモートワークが一般化したことで、さらに「若手育成」の難易度が上がった。今こそ、出版のタイミングだと思いましたね。

前田 なるほど。では、サイバーエージェントさんでは、その課題を具体的にどう改善していったのですか?

曽山 自然発生的に各部署がいろんなトライをしてくれたのですが、効果が大きくて自然と広まっていった施策は大きく2つあります。

 1つ目は、「面談の頻度を増やす」ということ。これまでも、トレーナーと若手社員の間では、週1回ほどの面談を推奨していましたが、活躍しているトレーナーは、リモートワークが主流になった途端、この面談を「毎日」行い始めたんです。時間はそれまでより短く、5~10分程度の面談なのですが、それを毎日細かく刻むことで、若手社員の変化を拾いやすくなったようです。

前田 それは効果がありそうですね。毎日面談をすることで、後輩のちょっとした困りごとも拾いやすくなりますよね。しかも、週1回、20分ほど行っていた面談が、毎日5分に変わったところで、時間的な負担はそんなに変わらない。

サイバーエージェントが若手社員を育てる「2:1の法則」とは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。

曽山 そうなんですよ。社内でも評判がよく、いろいろなトレーナーが真似をして、自然と広がっていきました。それで、2つ目の施策が「3人1組」ですね。

前田 3人1組? どういうことですか。

曽山 はい。これは「先輩2人」と「若手1人」でグループをつくるものです。「1対1」だと、やっぱり若手社員が緊張してしまうんですよね。特に、新入社員なんかは、直接会ったこともない人と、画面上でしかやりとりせず、2人1組で仕事を進めるのは抵抗感が強い。

 そこで「3人1組」にするわけです。1人の若手に先輩が2人つきながら、若手がたとえばチャットで、「今日はこんなことがありました」と報告すると、2人の先輩が「いいね!」「いいね!」と褒めます。若手は「1対1」より緊張感を抱えずにすみますし、1人から褒められるより、2人から褒められるほうが嬉しいですからね。

前田 たしかに。それに、若手社員があまり好ましくないことをやっていた場合でも、一人の先輩が「がんばってるね」と言っておけば、もう一人が「ただ、この点は気になりますね」などと問題点も指摘しやすい。若手にとっても、先輩からの指摘を受け取りやすくなりそうですね。若手育成「2:1の法則」と名付けて広げていただきたいですね!