牛乳をファッションに!
SDGs時代にも適した希望

 では、どうすればいいのか。今回の5000トンには難しいが、長期的な視点で、大手アパレルメーカーなどと組んで、生乳を用いたファッションの商品化を急ぐべきだと考えている。

 ご存じの方も多いだろうが、実は牛乳からは「ミルク繊維」というものができる。Jミルクのホームページの説明を引用しよう。

<牛乳から取り出されたカゼインというたんぱく質に、アクリル繊維の原料になるアクリルニトリルを結合させてつくられます。プロミックスと呼ばれる繊維です。シルクのような風合いと光沢があり、吸湿、速乾性に優れ、適度な保湿性があります。

 1970年代に、シルクの代用品として、着物地用に開発されました。

 現在でも、ミルク成分を配合した繊維は、タオルや下着など、肌ざわりの良さが求められる製品に生かされています>(Jミルク 牛乳からできる意外なもの

 今、多くのファッションブランドが「サスティナブル」を掲げているようにアパレル業界は環境面で厳しい目で見られている。毎シーズン、新しい服を大量につくるためにさまざまな原料を使い、売れ残りは大量に廃棄する「過剰在庫問題」なども注目を集めた。

 そこで、「ミルク繊維」の出番だ。廃棄される生乳や牛乳から衣料品をつくってそれを販売する仕組みをつくって普及させれば、酪農生産者にとってありがたいことは言うまでもないし、アパレルメーカーにとっても立派なサスティナブルファッションとして消費者に訴求できる。実際、アメリカではスタートアップ企業が、廃棄牛乳からTシャツをつくるという試みが始めている。

 生乳やバターなどの需給バランスによって、調整弁としての役割が期待できる、この「ミルクファッション」が普及すれば、食品ロスなどの問題にも関心が集まるかもしれない。

 うまくブランドマーケティングすれば、企業イメージが向上するだけではなく、ダイエットのために牛乳を敬遠しているような若者たちに、牛乳の魅力を再発見させるなんてこともできるかもしれない。

 バカバカしい話だと思うかもしれないが、今の日本の牛乳を安定供給するシステム下では、「バターを大量につくって安売りしろ!」よりはるかに現実的だし、「日本の酪農を守る」という点でも貢献できるのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)