ワーケーションとDX

日本のDX最前線『ルポ 日本のDX最前線』酒井真弓(集英社インターナショナル)

 鶴居村でのワーケーションに参加した会社員たちは、どんな感想を持ったのだろうか。キャンピングカーで参加した子連れの会社役員は、「仕事をしたい日は電源と電波を確保して移動を最小限にし、子どもをじっと見張っていなくても大丈夫なアクティビティを選べば十分仕事ができそうだ」と、次回への手応えをつかんだ様子だった。「まずは社内にはびこる、ワーケーションに対する変な罪悪感をなくしたい」と語り、担当部門のSlackで「ワーケーションやってみたい人?」と投げかけた。Slackは一瞬にして沸き、手を挙げた社員はその日のうちに宿を予約していた。

 筆者はDX事例を取材する中で、うまくいっている組織の共通点に「セレンディピティ」の存在を見出している。偶然の出会いから新たな価値を見つけだすこと。偶然の出会い――それは人との出会いに限らず、困難な状況に見舞われることかもしれない。それをチャンスと捉えることが、いつか過去を振り返ったとき、あれが大きな変化の始まりだったと評価されるように思えてならない。

 終身雇用の限界が叫ばれて久しい。その波に完全にのまれる前に、ワーケーションを通じて「評価につながるから頑張る」とか「周囲の目が気になって休めない」とか、そういう一見責任感があるようで会社に依存しているだけの価値観が崩れ始めたのだとしたら、私たちはすでにしっかりと変化のきっかけをつかめている。