本当に孤立している人たちには心の余裕がないので、「わかりやすいストーリー」を示されたらそこに飛びついてしまう。つまり、「孤立している人が無差別殺人を起こしました」というニュースを朝から晩まで流されると、「孤立している人」は精神的に追いつめられる。そして、人によっては「あなたが進むべき道はこっちですよ」と暗示にかけられて誘導されてしまうのだ。

 情報操作の世界では、これは「アナウンス効果」と呼ばれる。

 自殺報道がまさしくこれだ。今はだいぶ自制してきたが、かつてマスコミは有名人が自殺をすると、それを1週間くらいぶっ続けで扱った。通夜、葬式、出棺まですべて中継し、自殺の手法をCGで詳しく解説した。家族や友人、幼なじみ、果てはなじみの店まで探して、店員や常連客にまで追悼コメントをしゃべらせて、ワイドショーのコメンテーターたちは、ああでもない、こうでもないと好き勝手に自殺の理由を推測していた。神妙な顔をしていたが、やっていることは完全に「祭り」だった。

 マスコミ側は、「故人をしのぶ」「愛したファンのため」「このような悲劇を繰り返さない」ともっともらしいことを言って、自分たちの行いを正当化したが、なんのことはない。亡くなった有名人の熱心なファンや、自殺の動機だと推測されるようなことと同じ悩みを抱えている人たちに、「あなたが進む道はこっちですよ」と煽っていたのである。

 海外から十数年遅れで、ようやく自殺報道はガイドライン遵守の動きが出てきた。「人を殺して死のうと思った」と他人を道連れにする「拡大自殺」にも、早急に報道ガイドラインが必要なのではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)