「なおざり」は「等閑」、
「おざなり」は「御座形」

「なおざり」は「等閑」と書きます。「等閑」は、中国由来のとても古い言葉です。

 唐の詩人・白楽天の「琵琶行」には、「秋月春風等閑に度る」と書かれていますが、これは「秋の明月、春の花風と、浮かれて暮らしているうちに」と訳されます。

 もともと「等閑」は、「気にも留めずに、ホワホワとしていい加減に」という意味で使われたのです。

 白楽天の詩が我が国で流行ったのは、ちょうど『源氏物語』が書かれた平安時代中期のことです。

『源氏物語』を読むと、またか! と思うほど、「なおざり」という言葉が出てきます。しかも、男性が女性との関係で「いい加減」であるとする用法がほとんどなのです。

 一方、おざなりは「御座形(御座成り)」と書きます。

 この「御座」は、芸者さんにお酒を注いでもらって会話を楽しんだり、ゲームをして遊んだりするいわゆる「お座敷遊び」を指す言葉です。

 いつぐらいから使われるようになったか調べてみると、江戸時代後期の川柳にこんなものが見つかりました。

「お座なりに芸子調子を合はせてる」(『柳多留』五十八)

 現代風に訳すると、芸者が適当に合いの手を入れて調子を合わせている、といった意味になるでしょうか。

 ここから転じて、「お座敷遊びほどの、本気ではない、酒の席の、その場しのぎの、適当さ」を「おざなり」と表現するようになったのです。