新型コロナウイルスの世界的流行が収まれば、富裕層は再び外食やコンサート、旅行などにお金をかけるようになり、国際貿易は徐々に回復に転じるだろう。温室効果ガスの排出抑制が叫ばれるなか、コンテナ船はこれまで以上に低速で航行して燃費を落とそうとし、輸送時間はさらに延びるだろう。加えてサプライチェーンでのリスク対応が求められるため、メーカーや小売業者は、遠距離より近距離のサプライヤーを選択するようになり、今後は域内貿易の重要性が高まっていく可能性が高い。

グローバル化には、他にもさまざまな変化が生じるだろう。世界の多くの地域で少子化・高齢化によってモノの消費が減るだろう。高齢世帯は長年かけてモノをため込んでおり、衣類や家具より旅行や介護に金を使う傾向がある。これからはモノよりサービスが主役だ。音楽・映像は物理的に記録して専用機器で再生するのでなく、携帯電話にストリーミングされるし、企業もコンピュータよりクラウドサービスを利用するようになっている。確かに自動車の輸出入は続くだろうが、電気自動車はガソリン車に比べて部品がはるかに少なく、ソフトウエアが原価の大きな部分を占めるようになるだろう。

工業製品のグローバル化は後退し、サービスやアイデアのグローバル化が急速に進むだろう。大企業は研究・技術・設計といった業務を全世界に分散させつつある。航空機の整備や銀行の事務処理といった仕事は人件費の安い国にシフトしているし、ソフトウェアの設計はネット環境さえあればどの国の技術者でもできる。来るべきグローバル化の新段階では、その国の経済的成功を測る尺度は貿易収支ではなく、すべての国民が豊かに暮らせる政策をとれるかどうかにかかってくるだろう。