言い方を変えれば、30年前の為替レートを出発点にして物価上昇率格差を考慮して計算すると、今の為替レートは80円でも70円でも不思議はないのに、それよりもドル高円安で推移しているのは、それをもたらす力が働いているからだと考えることができる。

 その要因として、「企業が輸出より現地生産を選ぶようになったため、円安でも輸出数量があまり増えない経済体質になった」ことなどが挙げられる。日本製品の競争力が低下した結果であれば悲しいことだが、主因は別のようなので、特に問題視する必要はなかろう。

円安で日本人が貧しくなった?

「円安で日本人が貧しくなった」という人は多いが、そんなことはない。われわれは円建てで給料を受け取り、円建てで生活しているのだから、外国通貨の価格がどうなろうと、基本的にはわれわれの生活レベルは変化しない。

 外国人と給料を比べると、割負けているように感じるかもしれない。しかし、外国人と生活費を比べると、日本のほうが、はるかに物価が安くて暮らしやすいことに気づく。つまり、外国のほうが給料も高いが物価も高いので、外国人と日本人の生活水準はそれほど変わらないのである。

「円安で日本人の純資産が増える」というメリットも

 日本人が海外に旅行に行くと、貧しくなったように感じることがある。日本で稼いだ金を持って海外に行けば、何でも高くて手が出ないからだ。高度成長期の日本人にとって海外旅行は高嶺の花であったが、それに戻ったというイメージであろう。

 一部輸入品では、実質的なドル高円安により、国内での販売価格が上昇している。安定成長期には、ドル安円高のおかげで輸入品が安く買えていた。その後、海外の物価が上がった割に為替レートが変化しなかったため、日本国内での輸入品価格が上昇してしまったのだ。