「アルムナイとの関係」の基本方針を言語化すること

 では、アルムナイとの関係構築に初めて取り組む企業は、どのような点に注意したらよいのだろうか。

鈴木 まずは、「なぜ、いま、アルムナイとつながることが会社にとって必要なのか、そして、アルムナイにとって、どのようなメリットがあるのか」をしっかりと言語化することが大前提です。そのためには、人事部門だけではなく、経営的な意思決定が求められます。ここをきちんと行わないと、流行をなぞるだけの上滑りの施策になりかねません。

 次に大切なのは、長期的なスパンで取り組むことです。ところが実際には、新卒や中途社員の採用と同じように、「いついつまでに何人の登録者(アルムナイ)を集める」といった短期の目標ばかりを決めがちです。もちろん、短期的な目標が重要ではないというわけではなく、それはあくまでも関係構築の結果としての指標ということです。退職者とはすでに縁が1回切れているので、関係を再構築するのにはかなりの労力と時間がかかります。

 もうひとつ大切なのは、一方的に企業側の都合で進めるのではなく、アルムナイについてよく知ることです。アルムナイには転職や独立などさまざまな方がいますし、退職後の会社に対する印象もさまざまです。アルムナイの声を聞くことで、メインの対象者や取り組み方が当初の見通しと異なってくることもあります。 

 ある飲食業の企業では、当初は正社員の退職者を対象とした「アルムナイ」を検討していました。しかし、現場のヒアリングを進めていくと、「学生アルバイトアルムナイ」の存在が浮かび上がってきました。彼ら彼女らは、社会人になってからもアルバイト時代の人間関係をとても大切にしており、その企業への愛情・愛着も強いことが分かりました。消費者として応援してくれている人もいれば、提携の可能性がある企業で正社員として働いている人がいることも分かりました。そこで、元アルバイトを対象としたアルムナイコミュニティの構築を進めることになったのです。

 もちろん、コミュニティを形成した後に、当初の想定と異なる成果が生まれることも多くあります。当初は再入社・再雇用を促進するつもりはなく、アルムナイとの協業などを目的に関係構築を進めた結果、出来上がった退職者のデータベースを見た別の担当者が「今度のプロジェクトチームにはこの人にぜひ戻ってきてほしい」となって、個別で再雇用のアプローチに発展するケースもありますし、逆に登録しているアルムナイから「再入社できる可能性はありますか?」と問い合わせがあることもあります。

人的資本経営のカギとなる “アルムナイ”の可能性と“辞め方改革”

 方針の言語化やアルムナイの理解などが必要な長期スパンでの取り組み……具体的にはどのようなツールで、どういう施策を講じていくべきか。鈴木さんが実践的なアプローチを説明する。

鈴木 アルムナイのコミュニティを作るためには、通常、アルムナイが自分自身で情報を登録できるアルムナイのためのシステムを用意します。そのことを企業がプレスリリースなどで情報発信するとともに、社員から知り合いのアルムナイに案内してもらうことが効果的です。

 繰り返しになりますが、ここで大切なのは「アルムナイのコミュニティ構築が再入社・再雇用のためだけではない」という点を伝えることです。再入社・再雇用に限らず、ビジネス上の協業や提携ができたり、アルムナイ同士のゆるいつながりもできたりすることを理解してもらえれば、社員も積極的に「アルムナイコミュニティ」の存在を拡散してくれます。「再雇用の案内ページです」では、社員からアルムナイに登録を促進しづらいですよね。

 新たに退職する社員には、退職面談時に案内したり、退職時に渡す退職パッケージに、「アルムナイコミュニティ」への参加を促す案内状を入れておきます。受け取った後に登録するかしないかは本人の自由です。退職者にとっても、元の会社の最新情報が得られ、アルムナイ同士でつながれることをメリットに感じて、50%以上の登録率となる企業も多くあります。

 このアルムナイコミュニティの活動を活発にすることが、アルムナイとの関係におけるポイントのひとつですが、アルムナイに限らず、どんなコミュニティでも活性化は簡単なことではありません。当社ではツールだけでなく、企業からの情報発信やアルムナイイベントのお手伝いのほか、利用企業のアルムナイのみが利用できる福利厚生を提供するなどして、企業のアルムナイコミュニティ運営をお手伝いしています。