社員とアルムナイとのつながりが生み出す多様な価値

 アルムナイとの関係によって、企業には具体的にどのようなメリットが期待できるのだろうか――もう一度、整理してみよう。

鈴木  企業とアルムナイの関係における企業側のメリットは、「自社で活躍してもらうために投資をした人材をストック化することで、その投資から、より長く、より多くのリターンを得られるチャンスが広がること」です。いままでお話ししているとおり、そのリターンには直接的なものから間接的なものまで幅広くあり、そのためにはそれぞれの企業とアルムナイに合った関係を構築することが必要です。

 先ほど、再入社・再雇用はメインのメリットではないと言いましたが、再入社・再雇用のためだけにアルムナイとつながろうとしていても、アルムナイのニーズを満たしたり、アルムナイにとってもメリットがない限りは、企業にとって本当に必要な人がつながってくれる可能性は高くないです。それぞれのアルムナイが、退職した企業とのさまざまなつながり方を選べ、それによって新たな信頼関係が維持されていることで、初めて、即戦力となる優秀な人材が再入社したり、協業したり、「定着」してくれる可能性が高まります。

 また、アルムナイの活躍や、アルムナイと築いている良い関係を可視化することは、採用ブランディングや従業員エンゲージメントにも良い影響を与えます。離職率が改善したり、アルムナイとの交流による社員の能力開発といった効果も期待できます。

 アルムナイのメリットは、人事面だけにとどまらない。「経営戦略の観点からも大きな可能性を秘めている」と鈴木さんは指摘する。

鈴木 経営においては「両利きの経営」が重要と言われます。すでに成功を収めた企業がその後もイノベーションを起こしながら長期的に発展していくには、「知の探索」と「知の深化」の2つが欠かせないという考え方です。

「知の探索」は自社の既存の知を超えて、新たな知を探索するため、新事業やイノベーションを生み出すためには特に重要とされます。一方、「知の深化」は自社の既存の知をさらに深掘りして進化させるため、既存事業の改良や改善を重ねて成長を継続させるために特に重要とされます。

 そのため、「知の深化」には社内人材が最適ですが、「知の探索」は社内人材だけではなく、自社の既存の知を超えたところにいる社外の人材を巻き込むのが有効的です。「オープンイノベーション」は、社外人材も巻き込んで作り上げるイノベーティブな事業アイデアを、自社の既存の知を生かして事業化してイノベーションを起こしていく必要があります。アルムナイは「社内人材」と「社外人材」の両方の視点を持つ貴重な人材であり、まさにこの「オープンイノベーション」にうってつけのパートナーになり得ます。