人事戦略で重要なカギを握っているアルムナイ
競合他社に移ったアルムナイへの対応や機密情報の漏洩リスクも気になるところだ。これらについて、企業はどう考えていけばよいのだろう。
鈴木 競合他社に転職したアルムナイへの対応を聞かれることはたしかに多いです。ただ、基本的にアルムナイは社外の人間であり、その上で業務委託など、自社と何らかの契約関係にあるケースと、単なるアルムナイコミュニティに登録しているケースとを分けて考えればよいでしょう。
何らかの契約関係があるケースでは、当然、NDA(秘密保持契約)を結んでいるはずで、他の業務委託者と同じで、アルムナイだからといって他に特に気をつけることはありません。
アルムナイコミュニティに登録しているだけのケースでは、情報提供や情報共有のあり方に注意するしかありません。たとえば、現役社員もアルムナイコミュニティに参加できるようにしている企業では、現役社員が社内限りの情報をアルムナイとうっかり共有してしまうことも考えられます。普段から社内で利用しているチャットツール等でアルムナイ用のチャネルを作って招待しているケースなどでは、「社外の人」という認識を忘れやすいので、より注意が必要ですね。別のツールに切り替えることで、意識も切り替えさせるなどが有効です。
機密情報について言えば、退職前に持っていたものと退職後に取得するものが考えられ、退職後の取得情報については、いまお話ししたように情報提供や情報共有の方法に注意していくことが前提です。退職前の取得情報については、究極的には「その人」や「その人との関係次第」というしかありません。一般的に、辞めた会社との関係が悪い人ほど機密情報を漏らす可能性が高いです。辞めた会社との関係が良ければ「迷惑をかけないようにする」と考えるので、会社側が漏洩をそれほど心配することはありません。ここでもやはり、退職者との信頼関係が重要になるのです。
「人的資本」が注目されているいま、アルムナイは人事戦略において重要なカギを握っている。ただ、鈴木さんは「全ての企業がアルムナイのネットワークをつくるべき」とは考えていない。
鈴木 企業の人事部に、当社のクラウドシステムの説明やサービスの提案を行うと、「うちの会社ではこの部分が合わないから」「○○の部門が反対しそうだから」といった話がよく出ます。人事部が、社内の一部のみを対象としたり、一部を対象外とした施策や、一部の反発を生むようなリスクを伴う施策、または自社で前例がない新しい施策を実施しづらいことはよく理解しています。しかし、100%の成功や全員の賛成を目指していては、変えられないこともあります。アルムナイの取り組みも、0か100かといったデジタルな判断ではなく、多少でもメリットやチャンスが見込めるなら、スモールスタートでも試してみていただきたいと思います。逆に、「うちの会社は社員が絶対辞めない前提で人材に投資する」「もし、途中で辞めたら恨み続ける」という会社があってもいいと思います。そういう前提の会社もあれば、退職後もアルムナイとつながり続ける前提の会社もあります。個人のキャリアに多様性が求められるのと同じで、企業のスタンスにも多様性があるほうが、個人も自分に合った企業を選びやすくなるはずです。
これからの時代、人事戦略は経営戦略とリンクしていきます。アルムナイへの取り組みは、人事部門が会社の成長を支える価値創造部門へと転換していくきっかけにもなるはずです。