本書で紹介されているのは、決して高度なテクニックではなく、事前に準備をしたり、少し意識したりすれば実践できるものだ。ただし、自分ではなかなか気づけないことばかりでもある。

「心をつかむ伝え方」は、コミュニケーション力を上げるだけでなく、人生すら変えることができるかもしれない。そんな「できる人」の伝え方の裏側を知りたくなる一冊だ。(中山寒稀)

本書の要点

(1)人生のターニングポイントで短い言葉が決まると、歯車がかみ合ったかのようにいろいろな物事が動き出す。重要な場面では、「短く強い言葉」を発することが大切だ。
(2)長い話は伝わらないし、嫌われる。周りは指摘しにくいから言わないだけだ。しかも、話が長い人にはその自覚がない。
(3)話の中で摩擦熱を起こすためには、具体的な言葉を使うといい。特に有効なのが「固有名詞」である。どの言葉が相手に響くのかはわからないから、複数の固有名詞を使うことがポイントだ。

要約本文

◆言葉の「摩擦熱」で人を熱くする
◇短く強い言葉が人生を動かす

 たった一つの言葉が人生をジャンプさせることがある。それは、ごく短い言葉であることが多い。

 あるとき著者は、後にリクルート初のフェローとして活躍する藤原和博氏に声をかけられた。面識があったとはいえ、雲の上のような存在である。

 当時の著者は、すでにリクルートを退社し、MBA留学を目指して受験勉強をしながら、留学費用を稼ぐためにいくつかのビジネスを手がけていた。「今、何をやっているのか」と問う藤原氏に、著者は「留学費用を貯めるためにヤマメの養殖をしながら、クリスマスツリーを植えている」と答えた。年末にはクリスマスツリーとして需要が高まるモミ、イチイ、ドイツトウヒなどの木の苗の植林を、「クリスマスツリーを植えている」と表現したのだ。

「クリスマスツリー」という言葉がなぜか藤原氏に刺さり、プレゼントでツリーを配達するという注文を受けることになった。それをきっかけに藤原氏は、いろいろな人を紹介してくれるようになったのだ。その後、コンサルタントとして独立し、ここまでやってこられたのも、この時の出会いがあったからだと著者は振り返る。