物流大戦#16Photo:PIXTA

2023年7月に国土交通省が新設したトラックGメン。運賃を不当に据え置くなど悪質な荷主や元請け事業者に対する是正指導は急増しており、水面下で下請けの“告発”を促している。昨年末の「集中監視月間」では、ヤマト運輸と王子マテリアに初の「勧告」を実施。社名公表の“強権制裁”に打って出たが、今年末もトラックGメンが動くのは必至だ。次の狙いはどこか。特集『物流大戦』(全16回)の最終回で明らかにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴、重石岳史)

トラックGメン創設で是正指導急増
11~12月の「集中監視月間」で社名公表も!

 今、全国の荷主や元請け事業者が恐々としている存在がある。トラックGメンだ。

 トラックGメンとは、物流の2024年問題解決を目指し、2023年7月に国土交通省が新設した専門部隊だ。

 その特徴は、トラックGメンが自ら積極的に情報収集することにある。トラック運転手へのヒアリングや目安箱で情報提供を呼び掛け、荷待ちや付帯作業の状況を現場で目視。時にアポなしで荷主企業にパトロールに入るため、荷主へのプレッシャーは絶大だ。

 パトロールの強化だけではない。トラックGメン創設以降の最大の変化は、荷主や元請け業者に対する是正指導が急増したことだ。

 下図のように、トラックGメン創設前の是正指導数は1カ月当たり1.8件だったが、創設後は1カ月当たり56~57件(集中監視月間を除く)に急増している。

 トラックGメンによる是正指導には、「働きかけ」「要請」「勧告(社名公表)」の3種類がある。違反原因行為の疑いがある場合は「働きかけ」、その証拠が明確な場合は「要請」となる。要請は国土交通大臣の名前で文書が送付される上に、改善計画も立てなければならないため重い処分といえる。さらに、要請を受けた後もなお違反原因行為が改善されない場合は、「勧告」により社名公表される。

 トラックGメンの活動が最も活発になるのが、11~12月の「集中監視月間」だ。業界に衝撃が走ったのは、昨年の集中監視月間で初の「勧告」を発動し、ヤマト運輸と王子マテリアを社名公表する“強権制裁”に打って出たことだ。

 当の国交省も、社名公表に手応えを感じている。同省物流・自動車局長の鶴田浩久氏は「約2年前の公正取引委員会の社名公表をきっかけに、社名公表が相当有効に機能すると考えるようになった」と話し、その意義を強調する。

 公取委は22年12月、下請け企業に対し、原燃料費や人件費などのコスト上昇分を取引価格に転嫁する協議をしなかったとして、デンソーや佐川急便など13社の社名を公表した。「社名公表がきっかけで、問題を何とか解決しなければという意識に変わる。これに勝るものはなかなかない」(鶴田局長)

 今年も11~12月にトラックGメンによる集中監視月間が予定されている。昨年に引き続き、国交省が社名公表に動く公算は大きい。

 では、トラックGメンが狙う「ブラック荷主」は一体どこか。実際に今、現場で荷主企業らを監視するトラックGメンや、複数の下請け事業者らを取材し、社名公表される可能性の高い企業を実名で公開する。

 問題の根底には、国会でも話題に上った物流業界のあしき慣行の存在もある。次ページで詳細を明らかにする。