三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第123回は実家の「借金地獄」を終わらせた、驚きの借金圧縮法を明かす。
両親が抱えた数千万円の借金
主人公・財前孝史は不動産屋の営業マンの秋山から物件選びの基礎を学ぶ。秋山は不動産投資ではローンを活用するのが得策だと強調。借金を忌避し、欧米に比べて金利の動向に鈍感な日本人の金融リテラシーの低さを嘆く。
金融教育関連の講演を頼まれると、私はいつも金利をテーマに選ぶ。切り出しはいつもこうだ。「きょうは一番大事なのに、誰も教えてくれない話をします」。
株価や為替は頻繁にメディアで取り上げられるし、書籍やネット上のコンテンツも豊富にあるが、金利の情報は少ない。だが、経済や投資を理解する上でもっとも重要なのは金利であり、その土台がないと実践的な金融リテラシーは身につかないというのが私の持論だ。
金利がなぜ重要か、その知識をどう生かすのか。詳しくは「自分と世界を豊かにする3つの武器 高校生に贈る経済と投資の本当の話」というnoteをご覧いただきたい。
ここでは金利と借金に関するリテラシーの欠如がどれだけ大きなインパクトを持つのか、実体験をシェアしたい。以前このコラムで書いたように、私が小学生だった40余年前に父の会社が倒産し、数千万円規模の借金を抱え込んだ。その返済に実に20年以上もかかったのは、とんでもない「回り道」をしたからだった。
倒産後、いわゆる街金や親類縁者などへの返済を何とか済ませた後、信用金庫から受けた千数百万円の融資が残った。この借入金について、ほぼ20年間、両親は金利だけを払い続けた。
適用金利は借り入れ当初の7%台のままだった。金利だけで年100万円ほどになる計算だ。3人の息子が巣立った後も家計は苦しく、元本を返済する余裕はなかった。
私と兄がこの残った借金の存在を知ったのは2000年頃のことだった。それまで「まだ借金が残っているのでは」と探りを入れても、両親は「何とかするから大丈夫」とはぐらかすのが常だった。親として、子どもたちの世話になるのは気が引けたのだろう。
予想外の大きな負債が発覚!
ある時、兄が母を問い詰めたところ、予想外に大きな負債が発覚した。兄から連絡を受けた私は、残高の多さと金利の高さに驚くとともに、こちらから一括返済を申し出れば金額は大幅に減るはずだと指摘した。信用金庫の担当者に相談し、実際に300万円弱、金利3年分ほどで手を打つことになった。
大幅減額の理屈はこうだ。破綻した会社への融資はすぐに全額が損失処理される。金融機関にとっては「もう返ってこないのが当たり前」の不良債権であり、運よく回収できれば決算上は「利益」となる。
利払いさえ滞りがちの貸付先から一括回収できれば、今の担当者にとっては手柄になるはずだった。当時、関西で不良債権問題の取材をしていたこともあって、私にはこの構図が手に取るようにわかった。
兄弟でお金を出しあい、約20年にわたった我が家の借金地獄は終わった。両親の「大丈夫」の言葉を信じて放置していたら、その後も借金の山と終わらない利子の返済が続いていただろう。もっと早く介入できていれば無駄な高利を払い続ける必要はなかったはずだと思うと、今でも後悔の念が湧いてくる。
我が家の借金は極端なケースだろうが、金利と借金に関する知識は人生のコースを大きく左右しかねない。私は今後も「最初に学び、常に意識すべきは金利だ」というメッセージを発信し続けるつもりだ。