「留学のためにお金を貯めている」と答えたら、その後のつながりはなかったかもしれない。それ以来、話の中ではなるべく具体的な言葉を使うように心がけている。

 人生のターニングポイントでは、短い言葉が決まると歯車がかみ合ったかのようにいろいろなことが動き出す。ここぞという場面では、「短く強い言葉」を発することが大切なのだ。

◇大切なのは、for you感

「伝える力」は大切だが、ただ伝わるだけでは足りない。伝えたことにより、相手に行動を起こしてもらう必要がある。「すごい新商品が発売した」と伝えたら、相手に「すごい」と理解してもらうだけでなく、買ってもらわなければならない。

 そのために必要なのが「摩擦熱」だ。発信した人と受信した人の間で言葉の摩擦が熱を生む。それによって、相手が行動を起こすイメージだ。摩擦といっても悪い意味ではなく、相手をカチンとさせるわけではない。言葉で相手のやる気を引き起こし、いい気分にさせるような摩擦だ。摩擦熱が起こるのは、(良い意味で)気にしていることや好きなことを言われたときである。そのベースにあるのは、感情だ。

 言葉を発するとき、つい自分目線で自分が伝えたいことを発してはいないだろうか。大切なのは、相手のことを考える「for you感」である。プレゼントを渡すときのように、受け取った相手がどう感じるかを考え、最も伝わる言葉を選ぶことが必要だ。相手の身になって考え、「感情移入」する。当たり前のようでいて、実践できている人は少ないものだ。言葉を発する前に、一瞬だけでも「for you感」を意識してみよう。

◇簡単に摩擦熱を起こす方法

 会話の摩擦熱を起こすための簡単な方法は、「相手のことを口に出す」ことだ。初めて研修を担当する会社で、著者が自己紹介をしているときは、みんな漠然と聞いている。しかし、「御社に2年くらい通ったあと、人事の○○さんからセミナーのチャンスをいただき……」など、相手の会社や社員のことを話し始めた瞬間、雰囲気が変わる。

 個人名や会社名、出身地などの固有名詞は、簡単に摩擦熱を引き起こす。とはいっても、相手にどんな言葉が刺さるかわからない。だから、数多く連続して固有名詞を使うことがポイントとなる。

 会話の中で、相手の名前を呼ぶことも効果的だ。営業が強い会社のトップセールスは、相手の名前や役職を連呼するという共通点がある。