目的とビジョンを社員に明示する際に伝えるものとして、例えば次の6点が考えられます。
1. このM&Aの目的(得たい成果)は端的にいうと何か?
2. M&Aに踏み切った意思決定の背景には、どのようなものがあるか?
3. 具体的にいうと、どのようなシナジーの創出を期待しているのか?
4. M&Aを実行することで、業界内でどのようなポジションを獲得したいのか? 顧客にどのような価値を届けたいのか?
5. M&Aは社員にどのような成長機会をもたらすのか?
6. どのような時間軸で、PMIのプロセスを進めていくのか? マイルストーン(道しるべ)になる大きなイベントは何か?
こうした問いに対する答えを、M&Aが始まる早い段階から何度も繰り返し検討しておくことで、M&Aが目的から逸れた形で進むのを防ぐことができます。また、経営層やM&Aの担当者がこれらを一連のストーリーとして語れるようにしておくことは、M&A直後に買った側・買われた側の社員への説明を行う際にも役立ちます。
そして、担当部署や外部専門家によるデューデリジェンスが進み、買われる側の会社情報が追加で取得できた後、M&Aがオープンにされるまでの間に、M&Aの目的やビジョンをアップデートしておくことが重要です。
早期のビジョン提示がなぜ必要なのか?
関係者に対しては、M&Aが一般にオープンになったタイミングで、速やかに説明を行う機会を持ち、過不足のない情報共有を行うことが、PMIをスムーズに進めるための土台となります。M&Aから時間が経てば経つほど、情報が共有されないことに対する不信感は大きくなっていき、その後のPMIが難しくなります。
M&Aによってシナジーを創出するためには、これまでの業務の進め方についてのルーティンを崩す必要があり、それには業務オペレーションの面でも、心理的な面でも大きな負荷がかかります。
2社が協働することによって得られるシナジーを理解・共感し、「これまでのルーティンを崩してでも、シナジーを発揮しよう」という信念と意欲がなければ、シナジーを生み出すことはできません。組織というものが人によって構成されている以上は、単にM&Aを行っただけでシナジーが生まれることはありません。シナジーとは、そのなかにいる人たちがシナジーをつくる方向性を持って仕事をして、初めて生まれるものなのです。
社員としても、M&Aを通じて会社はどのようなゴール、ビジョンを目指しているのか、自分たちはどのように業務の進め方を変え、シナジーを創出することが求められているのか、に関する説明がなければ、期待される方向に進んでいるのかどうか、判断することができません。社員がM&Aを通じて目指す方向性や期待される立ち居振る舞いを明確にするためにも、M&Aを通じて実現したいゴールやビジョンについて説明することが重要なのです。
ビジョンを早期に提示するためには、M&Aがオープンになる前に、何をどう伝えるのか、しっかりと時間をかけて、ビジョンを伝えるための“ストーリー”を用意しておかなくてはなりません。また、誰に対してどのような形で情報を伝えていくのか、事前にコミュニケーション・プランを十分に練っておくことが重要です。
《連載バックナンバーはこちら!》
第1回 M&Aを失敗させる『人と組織』の問題とは?
第2回 M&Aはなぜ社員に葛藤をもたらすのか?
第3回 M&A後の組織・職場づくりの視点とは?
●本連載の第5回は4月5日(火)公開予定です。