日本型「製造業DX」を
どうドライブさせるか

新宅:最後に、日本型「製造業DX」を力強く進めるために必要なことを伺います。

島田:私が言いたいのは、「越境せよ」ということです。自分で自分を縛って、ここから先に出たらいけないと思うのが、一番よくありません。当社の「スマートレシート」も、初めはそんなことしていいのとみんながためらっていました。それがいまでは利用者が80万人以上に達し、多い時では1日に5000人ずつ増えることもある大人気アプリとなっています。一歩踏み出したか踏み出さなかったかで、未来に大きな差が生まれるのです。

藤本:長期的な人材育成という視点に立てば、やはり「一皮むける越境経験」が必要でしょう。特に若い頃から、海外や異業種で武者修行をしたり、顧客との重大トラブルなどの修羅場を体験したりすることで、人は大きく成長するでしょう。そのうえで、最終的にどのような人材に育ってほしいか。私の場合、それが「軍師タイプ」ではないかと考えています。たんなる戦略スタッフではなく、物事を上空から大きく俯瞰でき、同時に地上の作戦の細部もつくれる、頼もしい軍師です。スマートなだけではなく、泥くさいところも合わせ持った人材を多く育てることができれば、日本の強みを生かしたデジタルものづくりが生まれていくと思います。

野路:私は自分の経験してきた世界しかわかりませんが、ある程度のシェアを持っている大手企業なら、これからますますビジネスチャンスがあると考えています。自分たちのビジネスモデルを進化させ、お客様の現場のDXを成し遂げること、この2つを推し進めなければなりません。規制や商習慣の違いなど、壁は世界中どこに行ってもありますが、そこで辛抱強く取り組み、乗り越えた会社が生き残っていくと思うのです。そして、それを支える人材を育てるには、若い時から挑戦をさせること。経営者の仕事は「社員に対して新たなチャレンジの場を提供する」こと、これに尽きます。

新宅:最近の日本企業からは、「昔は業務の流れ全体や会社全体が把握できる人材がいたが、最近は自分の担当業務の範囲しか把握できなくなって、視野の狭い人材が増えている。それがイノベーションを阻害する一因になっている」という話をしばしば耳にします。そうした状況を打ち破って挑戦を続けていこうという力強い視点が、お三方に共通していると感じました。このディスカッションが、日本の製造業とそのパートナー企業の皆様の現場に役立つヒントとなれば幸いです。本日はどうもありがとうございました。

◉構成・まとめ|田口雅典(MGT)、宮田和美(ダイヤモンドクォータリー編集部)