金融緩和策の継続で
物価上昇の定着を目指す日銀

 FRBおよびECBと比較した場合、日本銀行が金融政策の正常化を目指すことは容易ではない。特に、わが国の需要が停滞していることは大きい。内閣府によると、2021年10~12月期のGDPギャップ(潜在的な需要と供給の差)はマイナス3.1%、金額にして年換算で17兆円の需要が不足している。

 そのため主要国の中でもわが国の消費者物価指数の上昇率は低い。日銀は金融正常化よりも前に、人々の心理に物価上昇が定着するのを待たなければならないはずだ。

 需要が不足しているということは、人々が欲しいと思うモノやサービスが見当たらないことを意味する。本当に欲しいと思う商品があれば、多少価格が高くても買う人は増える。それによって経済は成長し、企業の収益と従業員への給料が増える。

 しかし、1990年代以降のわが国は、資産バブル崩壊による景気低迷と不良債権処理の遅れ、グローバル化の加速による国際競争激化などに直面した。企業は既存分野から先端分野に経営資源を再配分して生産性を高めるよりも、雇用の保護を優先した。政府も公共事業を積み増すことによって雇用保護に取り組んだ。

 他方で、90年代に米国ではIT革命が起き、世界経済のデジタル化が加速した。米国ではソフトウエア開発に取り組む企業が増え、中国や台湾などの新興国企業は、米国企業が設計・開発した製品の生産を受託した。国際分業によって世界経済の効率性が高まった。

 わが国はそうした変化への対応が遅れた。97年には金融システム不安が発生し、企業は生き残るために雇用を削減し、経済全体で新しい取り組みを増やすことが難しくなった。人口減少も深刻で、経済は縮小均衡に向かっている。

 わが国は、自律的な景気回復を実現することが難しい。新しい需要を生み出すには、労働市場の改革など構造改革が必要だが、政府の規制改革は“踏み込み不足”である。

 日銀は金融緩和を続けて内需の弱さを糊塗(こと)する状況が続いている。需要の旺盛さをはじめ「経済の実力の差」が、米国やユーロ圏とわが国の金融政策の方向性の違いに明確に表れている。