自社のビジネスを「自分ごと化」してもらうために
では、新卒採用を行う企業は、どのようにすれば、効果的かつ効率的なインターンシップを組み立てることができるのだろうか? 目指すべきゴールとともに、その方法を福重さんに聞いた。
福重 採用担当の方に私がよく申し上げるのは、「自社のことを学生に理解してもらうプロセスには3つのステージがある」ということです。
ステージ1では、自社の「儲けの仕組み」を理解してもらうこと。どのような製品やサービスをつくり、それをどのような顧客に提供し、どのように利益を生み出しているか、ということです。ステージ2では、「組織」を理解してもらうこと。そのビジネスモデルを回すために、社内にはどういう組織や部門があって、それぞれがどのような役割を担い、どのようにつながっているかを分かってもらいます。ステージ3では、「日々の行動(仕事)」を理解してもらうこと。社内の各組織や部門で日々どのような仕事が実際に行われ、どのような社員が活躍しているかに関心を持ってもらいます。大切なのは、ステージ1から2、ステージ2から3という順番で理解してもらうことです。「儲けの仕組み」や「組織」を理解する前に、ステージ3にあたる社員紹介をしてみても、学生はピンとこないでしょう。
インターンシップは、短期のものであれ、長期のものであれ、学生に自社のことを理解してもらい、ミスマッチを軽減するために行うものです。そして、最終的な目的は、「この会社はこうして儲けている」「こういうビジネスを行っている」「そのために、この組織・部門がある」ということを、参加した学生自身が自分の言葉で話せるようになってもらうことです。つまり、自社のビジネスを、参加学生に「自分ごと化」してもらうことがゴールです。
加えて言えば、ステージ3は、現役社員の個人レベルの話であり、「私は……」という主語の持ち主が必要となります。いろいろな現役社員と接触することが学生にとっての価値となるので、インターンシップ以外に別の機会を設けることも効果的です。
福重 インターンシップのプログラムの組み立てで重要なのは、参加する学生にとっての「体感品質」を上げることです。私がインターンシップの組み立てをサポートする際に常に意識しているのは、その企業のビジネスや各組織・部門での仕事を分かりやすく噛み砕き、それらを一般化・抽象化することで他企業と比べやすくすることです。
「ビジネスや仕事を分かりやすく嚙み砕く」とはどういうことか……ビジネスや仕事には、大きく分けて次の4つのタイプがあります。
(1)0(ゼロ)から1(イチ)を生み出す「創造」のビジネス(仕事)
(2)1を100にする「拡大」のビジネス(仕事)
(3)100を100として維持し、場合によって+αを加える「保守」のビジネス(仕事)
(4)これまで□だったものを△に組み替える「変容」のビジネス(仕事)
そして、これら4つのタイプごとに、英文法でいうSVOを考えていきます。Sは主語(主体)であり、「誰が」ということです。企業であったり、組織・部門であったり、そのメンバーが主語となります。Oは目的語(客体)で、「誰に対して」ということです。BtoCのビジネスであれば個人(消費者)であり、BtoBのビジネスなら、法人や国・地方公共団体などでしょう。そして、Vは動詞であり、「何をするのか」ということです。このように4つのタイプ分けを前提にして、学生にSVOを考えてもらうようにすれば、自社のビジネスモデルや社内の各組織や部門の仕事を分かりやすく伝えられます。
「一般化・抽象化して伝える」というのは、ビジネスや仕事を分析するためのフレームを参加学生に教えてあげる姿勢です。私は、これを「インターンシップにお土産を付ける」と呼んでいます。
就活を始める時期の学生は主に3年生で、ビジネスや仕事の実状をほとんど知りません。そうした学生たちに「うちの会社はこんなにすごいです」「うちの会社っていいでしょう?」と投げかけてみても的外れでしょう。そうではなく、ビジネスや仕事を分析して理解するための物差しやフレームを教えてあげるのです。学生が、「そうやって企業研究をすればいいのか」「そのことをベースにエントリーシートを書けそう」となるような“インターンシップに参加したことのお土産”を渡すのです。ポイントは、自社のビジネスや仕事をベースに、物差しやフレームをつくること。一般論として語りながら、自社への理解を深めてもらうのに適した物差しやフレームを与えるわけです。結果、学生は他業種や他社の研究を進めながら、インターンシップに参加したその企業に気持ちを戻してくるでしょう。