状況が好転したのは、次のような事例だ。

・夫が在宅ワークになり、息子のことを夫と分かち合ったり、相談できたりして、息子へのストレスが軽減された。夫の息子への理解が深まった。

・土日しか堂々と暮らせなかった子どもが、コロナでリモートワークが普通になったことで、昼に堂々と買い物に行ったり、部屋の電気をつけたりできるようになった。

・人との関わりが不得意な息子が、在宅の仕事を始めることができた。

・ひきこもりの長男が自主的に健康診断に行った。

 この調査だけでなく、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が行っている座談会でも、世を挙げての外出自粛の推奨によって、「今日のテイクアウトのメニューをどうしようか、親子で会話できるようになった」「母の感染を気遣って買い物や車で送迎してくれる」などの報告がいくつも寄せられている。

 なぜ、ひきこもり当事者の間でも、コロナ禍の間に精神状態が悪化する層と、好転する層に分かれるのか。

家族の覚悟と価値観の変容が
ひきこもり当事者の明暗を分ける鍵

 明暗を分けるキーポイントは、「当事者の家族がコロナ禍を機に、これまでの一面的な生き方や価値観を見つめ直せたかどうか」だといえる。

 先述の通り、江戸川区の実数調査をきっかけに、Aさんは短時間の「やりやすい」仕事に出合うことができた。他にも、多くのひきこもり当事者たちやその家族が相談に来ることができた。

 彼・彼女たちが動き出せたのは、「たとえひきこもったままであっても生きていく」という目的のもとで、それぞれの状況に合った働き方や生き方の選択肢を、周囲が少しずつ用意できるようになったからだ。

 これまで述べてきたように、現代はひきこもり当事者の年齢・性別が多様化し、そこから脱却できるか否かも二極化している。そうした時代の変化に気づき、家族が「覚悟」を持って本人の心情や特性を受け止めているか否かが、家族関係や本人の精神状態にも影響するのではないだろうか。

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