専門医がいなくても分かる
MCI早期発見の診断方法とは

 まずはスクリーニング法について。物忘れ健診を受診した高齢の住民121人に対してToCAを中心とする検査を実施した結果、感度88.2%、特異度88.5%でMCIを検出することができた。

 時間をさかのぼって説明しよう。

 大塚教授らは2000年から、北海道の浦臼町において町主導の老年医学健診を実施してきた。この町の高齢化率は高く、高齢者の健康をいかに守るかが第一の課題であった。ただし貧しい自治体ゆえ、お金はかけられない。少ない資金で効率の良い成果を上げることを追求し、食事・運動・眠りを指導することで、生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症等)や抑うつへの取り組みを行い、成果を上げた。

 そして、次なる課題が本稿のテーマである、超高齢化した町でMCIを早期発見し認知症予防にいかに取り組んでいくか、だった。MRIや脳血流シンチグラフィーのような、大都会なら普通にある検査機器は使えない。
編集部注※脳の血液状態などを見るための検査

 加えて、MCIを的確に診断するためのスクリーニング検査法も、まだ十分には開発されていない。そこで教授らは、前述のMoCAを参考にして、高齢者住民のMCIを早期発見するため日本人に見合った臨床神経心理学的テストTokyo Cognitive Assessment(ToCA)‐MCIを編み出したのである。

「ToCA‐MCIは MoCA に比べて比較的長文(25語)の物語の短期記憶を評価することが特徴です。パソコンにこのソフトをインストールし、パソコンから課題を住民に語りかけ、住民の皆さんにはそれに応答する形で順次回答してもらいます」

 ToCA‐MCI以外にも、睡眠障害と抑うつ、身体活動能力(5m歩行速度、握力)、老年症候群(ロコモティブ症候群、サルコペニア、フレイル)などの計測など、さまざまな検査を組み合わせた。

 ロコモティブ症候群とは、「高齢化によりバランス能力および移動能力の低下が生じ、閉じこもり・転倒リスクが高まった状態」と定義されている。

 この調査では、

(1)片足立ちで靴下がはけない
(2)家の中でつまずいたり滑ったりする
(3)階段を上がるのに手すりが必要
(4)横断歩道を青信号で渡りきれない
(5)15分間、続けて歩くことができない
(6)2kg程度の買い物をして持って帰るのが困難
(7)掃除機の使用、布団の上げ下ろしができない

 という質問のうち、該当する項目数をロコモスコアとして評価。ロコモスコアが1以上で、かつ歩行速度が0.8m/秒以下に低下している場合をロコモティブ症候群とした。

 サルコペニアは、「加齢に伴う筋力の低下、または老化に伴う筋量の低下」と定義されているが、この調査では、

(1)体重減少(2年間で3kg以上の体重減少)
(2)握力の低下(女性<20kg、男性<30kg)
(3)歩行速度の低下(0.8m/秒以下)

 の3項目のうち2項目以上当てはまる場合と定義した。

 フレイルは、「加齢に伴う種々の機能低下(予備力の低下)を基盤とし、種々の健康障害に対する脆弱性が増加している状態」と定義されるが、

(1)体重減少(6カ月間で2~3kg以上の減少)
(2)2週間わけもなく疲れたような感じがする
(3)握力の低下(女性<18kg、男性<26kg)
(4)通常歩行速度の低下(<1.0m/秒)
(5)活動度の低下(軽い運動・体操、定期的な運動・スポーツをいずれもしていない)を調査し、該当する項目数が0の場合を健康、1~2の場合をプレフレイル、3以上の場合をフレイルと評価した。

 続いて、医師による20~30分間の面接診断によって記憶、見当識、判断力と問題解決、社会適応、家族状況および趣味・関心、介護状況の6項目について、5段階で認知症の重症度の評価と、うつ病の有無を評価した。

 結果、高価な検査機器を使用せず、専門医がいなくとも、例えば保健師が中心となってToCA‐MCIを実施すれば、約9割もの精度で認知症予備群の早期発見が可能であることが分かったのである。