先手を打って戦略的に
「たたむ」ことが不可欠

『ワールドクラスの経営』という著書があるせいか、どのような企業にもグローバル化を勧めていると思われがちですが、すべての日本企業が世界に向かう必要はないと、私は考えています。国としてのポートフォリオにおいて、個々の企業には役割分担があって当然だからです。

 例えば、この2年間で110万人の人口が減少した日本で、最後まで生き続けるプレーヤーもいるでしょう。日本は衰退市場とはいえ、人口では世界11位、下げ止まらない1人当たりGDPも、もうしばらくは30位以内をキープするはずです。つまり、あと20〜30年間は、国内だけでもそれなりに稼げると考えられます。

 このような市場を、盟主として守り、アップグレードやリノベーションを主導する企業、あるいは、収斂(しゅうれん)せざるを得ないけれど、なくすこともできない、そのような業界の生産性を高めるために、殿(しんがり)を務める企業は、国体を維持するためには欠かせない存在です。

 時代錯誤と思われることがあるかもしれません。しかし、このあたりは個々の企業任せにしたり、資本市場の原理に委ねたりするのみならず、経済産業政策として、国が主導する必要もあるでしょう。当たり前のことですが、国の産業ポートフォリオと企業の事業ポートフォリオはつながっているのです。

 一連のコーポレートガバナンスに関する議論は、市場との対話を通じて、日本企業の経営をよくしていくための試みですが、万能ではありません。個別のみならず、産業連関の視点から、企業や事業を見ておかないと、「日本国の産業ポートフォリオ」にとって欠かせないピースを、廃業させてしまったり、海外勢に買われてしまったりなど、不作為に失うといった、取り返しのつかない事態に陥る可能性もあります。

 現に、日本の生命線のひとつである素材産業のサプライチェーン上の問題として顕在化しているケースもあります。

「高齢化を伴う人口減少」で国が縮みつつある今、追い込まれてからの後手では、選択肢が限られます。産業の収斂、事業のスワップ(交換)、再国営化、など、これまでの常識にとらわれない先手を打って、戦略的に「たたむ」ことが不可欠です。

 そのようにして「縮むことは不可避だが、存続させるべき産業」の生産性を高めることで、新たな産業や、付加価値の高い企業や事業に、貴重なリソースを回せるようになるはずです。

 新たな産業や、付加価値の高い企業――。その代表格がスタートアップ企業です。

 もちろん、すでに一定数の優秀人材は、スタートアップへ流入しています。大企業からスタートアップへの転職も、今後ますます増えるでしょう。日本の産業をアップグレードする、新たな雇用の機会を生み出すなど、彼らに期待するところは非常に大きい。ですが、サービス(第3次)産業の企業も多く、そのインパクトは国内に限られるという傾向も見られます。

 やはり、食料・資源・エネルギーを外に依存する日本は、外貨の獲得が必要です。外で稼げる企業をいかに生み出し、強くするか。すでに海外で戦っている企業も含めて、これまで以上に海外に目を向けざるを得ない。それが、外部依存性の高い日本を母国とする、多くの日本企業にとっての宿命でしょう。