CEO在任中に、BCGは2030年までに気候への影響をゼロにする(net-zero climate impact)という公約を掲げた。現在、世界経済フォーラム(WEF)のCEO気候リーダー同盟のチーフアドバイザーであり、包摂的な資本主義のための協議会の運営委員会など世界の主要機関のメンバーを務める。CEO時代は米ビジネスラウンドテーブルやWEFの国際ビジネス評議会に主要メンバーとして参画した。ミシガン大学化学工学部卒業。ハーバード経営大学院経営学修士(ベーカースカラー)。Photo by Ryo Otsubo
2050年前後にカーボンニュートラルを達成し、地球の気温上昇を産業革命前比1.5℃に抑えることは、人類が解決すべき最重要の課題だ。2030年までに温室効果ガスの排出量を2010年度比で45%削減すると世界は合意している。しかし、各国の削減目標の合計は1%未満(2020年末時点)と、現実は厳しい。そんな中、脱炭素を強力に推進するのが世界有数のコンサルティング会社であるボストン コンサルティング グループ(BCG)だ。会長のリッチ・レッサー氏にその主旨や施策、世界の潮流を前編で聞いたのに続き、後編では近年注目されるESG投資や企業のパーパスと気候危機の関連などについてインタビューした。(聞き手/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 編集長 大坪亮、構成/富岡修)
>>前回より続く
エネルギー需給の逼迫は
中長期的には追い風
――地球温暖化対策は、国際協調が欠かせません。ロシアのウクライナ侵攻による悪影響はどの程度でしょうか。
地球温暖化対策は、全世界で取り組むべき最重要アジェンダであることに変わりはありません。
ただしここ数年間で、優先順位のつけ難い多くの問題が起きました。新型コロナウイルス感染拡大をはじめさまざまな危機が生じているさなか、さらにロシアのウクライナ侵攻が勃発したことで、温暖化対策に多少の停滞はあるかもしれません。しかし、後退することはないと私は思います。
――温暖化対策で、企業の取り組みは後退しませんか。
短期的な後退はあるでしょう。エネルギー需給が逼迫化して、天然ガスなどから、CO2排出がより多い石炭に発電源をリプレースする流れが起きてしまうからです。
しかし逆説的ですが、エネルギー需給の逼迫は、中長期的には追い風となるでしょう。今後、石油や石炭などの化石燃料の価格はこれまでのように安い価格には戻らず、高騰を続けると思います。多くの企業は、化石燃料に依存することを大きなリスクと捉え、再生可能エネルギーに代替する流れが加速するでしょう。
――エネルギー価格の高騰に加え、カーボンニュートラルを実現するための投資がかさみ、企業の短期的な利益が下振れする懸念があります。短期利益を犠牲にしてでも、カーボンニュートラル経営を推進すべきでしょうか。
企業経営は今や長期的な発展と短期的な利益をトレードオフで考えるべきではありません。短期利益を追求して、CO2排出量が増える企業もあるとは思います。しかし、このような企業活動は、顧客や投資家、社会などさまざまなステークホルダーに疑念や懸念を抱かせ、当該企業にマイナスのアテンションを向けさせてしまい、企業イメージを大きく棄損します。
――投資家は短期利益に目が向かいがちではないですか。
短期利益に関心が高い投資家は、もちろん一定数存在してきました。しかし今、投資家の考え方は多様化しています。
短期的な業績以上に、長期的な視野を持ち、気候変動問題に関する企業の透明性や取り組みを重視する投資家が増えています。こうした投資家の変化は、世界のカーボンニュートラル実現に向けた追い風になるでしょう。
――ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に前向きな世界最大の資産運用会社ブラックロックの会長であるラリー・フィンク氏は、最近、企業収益を重視するかのような発言をしているようにもみえますが、どう思われますか。
現在、時間や広がりなどの面で地球的規模の大変化が起きています。その最たる危機、気候変動を前に、人類が何もしないということのリスクはとても大きいと思います。また、こうしたことに対する私たちの考え方や言葉の使い方は、徐々に洗練されてきています。
フィンク氏の言動は、世界のより多くの人に、こうした現状についての理解を広めようとしている、というのが私の解釈です。つまり彼は、企業にとって脱炭素を推進することは、環境かビジネスかという二者択一を迫るものではなく、脱炭素に向かう世界的な潮流に対応し、それを前提にさまざまなリスクをマネジメントしていくことが非常に重要なのだ、という認識を広めようとしているのではないでしょうか。
私自身は、脱炭素経営と企業価値創造はトレードオフではない、と考えています。サステナブルなやり方で、両方を同時に実現していくことは可能であり、今の経営に必要なことです。このことを、期待値を超えて実現できた企業こそが勝利者になっていくと考えます。