「黄金の3年」二つ目の重要課題
分配政策と年金

 さて、岸田内閣の「黄金の3年」にとって二つ目の重要課題は、年金を含む社会保障と全般的な再分配政策だろう。もともと自民党総裁選の初期には分配政策重視を公言していた岸田首相のことなので、問題意識はあるはずだ。

 かつて言い出して、市場に1回目の「岸田ショック」を与えた「金融所得課税の見直し(=強化)」のようなトンチンカンな政策を再び持ち出さないことが肝心だ。そんなことをすれば「資産所得倍増」に逆行してしまう。

 また、スケジュールとしては、2023年の人口推計を基に24年には、公的年金の財政検証が行われる。

 財政検証では、例によって、「モデル世帯」(既に世の中の平均からズレているが)の「所得代替率」(現役世代の所得に対する年金受給額の比率)の議論が取り沙汰される。将来も所得代替率50%を維持可能であるのか否か、その計算の前提数字は現実的か――。そういった幾らか複雑で、しかも国民感情を刺激しやすい議論に政治の世界も巻き込まれることが予想される。政治家の失言が出やすいし、世間も大騒ぎしやすいテーマなので、年金は時の政権にとって「鬼門」とも言えるテーマだ。

 大まかには、23年に出る人口推計の出生率は、これまでに想定されていたよりも早くかつ大きく低下している公算が大きい。その前提で将来の財政検証の計算を行うと、将来の所得代替率は50%を維持できない結果が出る可能性がある。しかし、これに対しては無理な前提を置いて(例えば実質賃上昇率の非現実的な伸びを仮定するなど)「50%維持」を取り繕うべきではない。

 マクロ経済スライド方式を使った現在の年金財政のあり方自体は、大まかにはこのままで良いだろう。公的年金は、財政が逼迫していきなり破綻するような仕組みにはなっていない。

 もちろん、総合的な富の再分配効果について年金を含めて総合的に検討する必要はある。ただ「分配問題」にあっては、年金制度を操作することによる高齢者向けの再分配ではなく、若者を含む現役世代の経済弱者に対する再分配を重視したい。社会保障制度を支える世代への応援であると同時に、「人への投資」でもある。

政権にとって「3年」は消して長くない
大きな政策には今すぐ着手すべき

 本連載では、特に低所得な若者中心の現役世代に対する「再分配」かつ「サポート」として最も簡単で効果的な政策を過去に何度か提案している。それは、目下2分の1負担の国民年金・基礎年金の保険料を全額一般会計負担にすることだ。給与所得者なら厚生年金保険料と共に差し引かれている社会保険料が、1カ月当たり1万数千円減ることになり、直ちに手取り所得が増える。しかも、一時の給付金収入ではなく、継続的な手取りの増加だ。

 この財源は特定の税目と結び付ける必要はない。ただ、例えば所得税を中心に増税すると、「差し引きでは」高所得な人から低所得な現役世代に「再分配」がなされることになる。

 実現のためには、年金を所管する厚労大臣と財源に関わる財務大臣に強力な実行力を持った人物を充てる必要があるので、次の組閣には大いに注目したい。

 付け加えると「黄金の3年」と言っても、3年目の24年には次の自民党総裁選があり、翌年には衆議院の任期満了に伴う解散総選挙が迫ってくる。こうした再分配政策に限らず「大きな政策」は、今すぐに方針を決めて、23年の通常国会では法案を通すくらいスピード感を持たないと実現できないはずだ。

「有識者による検討会議」のような時間の無駄を官僚に作られてしまうと、重要な政策は実現しないことを付言しておく。政権にとって「3年」は決して長くない。