「学習する組織の最小単位はいつもチームから」、ピーター・センゲ氏の言葉を識者3人が読み解く「私」が「私たち」に変わる瞬間とは? Photo by Teppei Hori

「システム思考」や「学習する組織」は、得てして難解な印象があるかもしれません。そこで、「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のイベントに登壇した、MIT経営大学院上級講師であり、世界的なベストセラー『学習する組織』の著者であるピーター・センゲ氏の約90分に渡るレクチャーを、センゲ氏と交流の深い3人が鼎談(ていだん)。それぞれの解釈と共に、「学習する組織」の実践方法について語ってもらいました。その模様を前編・後編の2回に分けてお届けします。(進行/福谷彰鴻、構成・文/奥田由意、長谷川幸光)

※本記事は、2022年6月8日に開催されたオンラインイベント「テクノロジーの進化と学習する組織」の内容を基に再編集したものです。
※ピーター・センゲ氏のレクチャー内容はこちらの特集でご覧いただけます。

我々は短期的な課題に追われているが
長期的に何を考えていくべきなのか?

――ピーター・センゲ氏のインタビューは、いかがでしたか。インタビュアーを務められた福谷さんから、ご感想をお聞かせいただければと思います。

福谷彰鴻(以下、福谷) 一番感じたのは、いつもどおりのピーターだということです。彼はいつも、ビジネスの場では教育についてを、教育の場ではビジネスと教育のつながりについてを、話します。

 ビジネスと教育の課題を別々に捉えるのではなく、両者はつながっているということが「学習する組織」のシステム思考のベースにあるのですが、それを踏まえて「私たちがどのような社会をつくっていきたいか、が大事だ」と話されたのが印象的でした。

福谷氏福谷彰鴻(ふくたに・あきひろ)
システム思考教育家。米国でMBA取得後、欧州系ヘルスケア企業等を経て、ボストンのSoL(組織学習協会)にて、ピーター・センゲ氏の各種ワークショップの運営をサポート。10年以上にわたってセンゲに直接、師事し、継続的なメンタリングを受けている。帰国後は⽇本の教育分野における「学習する組織」及び「システム思考」のツールや考え方の導⼊に従事。国公立大学、中学高校での講義やワークショップ、教職員向け講座を多数開催し、さまざまな学習するコミュニティづくりを推進している。Photo by Teppei Hori

 テクノロジーの道筋(Path of Technology)を決定するのは、テクノロジーではなく、人間の「ビジョン」である。テクノロジーはあくまでエネーブラー(enabler/何かを可能にするもの)であって、「私たちが何を実現したいか」ということが問われている。

 しかし、この社会であまりにもたくさんの刺激を受け続けていることで、私たちは状況に対して反応するだけになっている。こんな刺激がある、こんなことが起きていて出遅れていてまずい、と長期的な視点を持たずに、とにかく「早く」、何かができるようになっていかなければ、という考えに私たちはとらわれている。

 テクノロジーが進化していく中で、私たちは目前のビジネスなど、短期的な課題に追われているが、同時に、長期的に何を考えていくべきなのか、そうした視点を持てるような場(ソーシャル・フィールド)を持つこと、それをすごく強調されました。これはある意味、マインドフルネスともつながるかもしれません。

 お二人にお聞きしたいのですが、「テクノロジーをどうやって早く身につけるのか」ではなく、「(私たちが実現したいことに向けて)どのようにテクノロジーを使っていくのか」を問うことが大事なのだというのが、ピーターの一番のメッセージでした。とはいえ、今、目の前にさまざまな課題が山積みになっている。そのような中で、私たちはどのようにこのメッセージを考えたらいいのでしょうか?